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「コンサイス外国人名事典」について

監修のことば

 20世紀最後の4半世紀に入った今日,いかなる国家・民族といえども諸外国とのなんらかのかかわりなしにはl日たりとも生存し得ないのはいうまでもない。その結果,諸外国の歴史・政治・経済・社会・文化に関する正確で簡潔な知識を必要に応じていつでも引き出せることが,現代人の日常生活にとって,とくに職業上・勉学上・教養上不可欠な条件となった。世界の歴史・経済等に関する各種の辞典・要覧類が数多く刊行されているゆえんである。

 これらの辞典類には人名辞典も当然含まれている。歴史といい,政治・経済・文化といい,すべては人間がつくり,また動かしているのだからである。従来欧米諸国でも,日本でも多数の人名辞典が刊行されており,これらの中には定評のあるものも少なくない。しかし,それらは大部であること,項目の選定が欧米偏重であること,歴史的な人物に重きを置きすぎていること,一般向きでないことなどの点,現代人の要求に対応していない。

そこで,本辞典の編集にあたっては,以下のような基本方針に従って編集を行なった。

1.読者対象

一般社会人を主たる対象とするが,教師・学生の使用を考慮し,高校生も念頭に置いた。

2.項目の選定

(1)項目数を豊富にした(約16000項目)。

(2)項目の選定基準として以下のような特別の配慮を行なった。

(a)時代別−近・現代に重点を置き,19世紀以降に3分の2以上の比重を与えた。

(b)地域別−アジア・アフリカ・ラテン-アメリカ・東ヨーロッパ諸国の人名の充実に留意した。

(c)分野別−政治・経済・社会・学問・宗教・芸術はもちろん,神名・架空人名(小説等の主人公など)まで広範囲におよんだ。とくに従来の辞典類では欠けていた社会運動・民族運動などに関する人名を収録するよう心がけた。

3.記述方法

 (1)記述は簡潔・正確・客観性・具体性を旨として,主観的表現による評価は極力避け,必要事項は一定の順序に従って記載した。

 (2)各項目のスペースについては,その人物の歴史的重要度を考慮に入れた。

4.表記方法

 (1)人名の表記については,原地の言語に基づく読みを工夫した。

 (2)原綴りについては,一般にラテン文字を使用する言語圏についてはラテン文字を使用し,アラビア文字その他の言語圏も原則としてラテン文字に転写したが,例外としてキリル(ロシア)文字・漢字を採用した。(第3版ではキリル文字はラテン文字に転写した)

 以上の項目選定の諸基準・記述・表現方法により,本辞典はきわめてユニークな特色をもつものと確信する。

 われわれ7名の編集委員が本辞典の編集にとりかかったのは7年前の1969年夏のことで,以後約1年間は編集方針の確立,項目の選定等に費やし,ついで延べ125名の方がたへの執筆依頼,第1次原稿の作成,第1次原稿の地域ごと・分野ごとの中間的な照合・校閲・増補訂正,最後に編集委員全員による最終原稿および校正刷の校閲などを経てようやく刊行にこぎつけることができた。

 この間,地域ごと・分野ごとの項目の選定や第1次原稿の校閲などに関しては若干の専門家の方がたの手をわずらわせたが,とくに自然科学関係では東京工業大学の道家達将教授の並々ならぬ御協力をいただいた。本辞典は,これらの方がたをはじめ,各項目の執筆者,ならびに煩雑かつ膨大な編集実務に従事された三省堂編修所の方がたの御協力によって完成されたのである。深謝する次第である。

 なお,付録の年表(第3版では割愛した)は編集委員の一人土井正興の責任で作成したものである。

 われわれとしては本辞典の編集に万全を期したが,さらに読者の御批判・御指摘を得て,より一層充実した辞典とすべく努力を重ねていきたい。

1975年 12月

相田重夫
荒井信一
板垣雄三
岡倉古志郎
岡部広治
土井正興
野沢 豊