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「雅語・歌語 五七語辞典」の内容より

はしがき

「雅語・歌語 五七語辞典」のはしがき

     俳句や短歌の実作で、上級者のように上手に古語を使いたいという人が増えているという。
     しかし、古典を開いて自分のイメージにあった言葉を探すのは大変なので、便利な本が欲しいという声が本書を作るきっかけとなった。
     古典というと、それだけで難しいと考えがちであるが、ひとつひとつの言葉を味わってみると、とても柔らかく優美である。カタカナ語や造語・略語が氾濫する現代であるからこそ、昔の言葉が新鮮で魅力的に感じられるのではないだろうか。変貌の激しい社会の中で“美しい日本の言葉”は時代を越えて生き、人を惹きつける力を持っている。
     源氏物語や平家物語をはじめ、古典・時代物を題材とした小説やテレビ・映画の人気が根強い理由の一つとして「言葉の力」もあるのであろう。
     藤原定家も、古い言葉を尊重し、新しい表現を目指すことの重要性を説いている。現代の人々が古典の言葉を上手に活用し、句作り・歌作りすることを願い本書を制作した。
     本書は万葉集からはじまり、古今集をはじめ平安時代の和歌集・物語、鎌倉時代、室町時代、江戸時代、明治、大正、昭和前期に至る千年余りの代表的な和歌、連歌、歌謡、短歌などから雅語・歌語の五音七音表現を採集した(本書ではこれらを「五七語」と呼ぶ。五音七音表現を意味する造語である)
     採集した約五万の五七語は、天象・地理・衣食住・心・動植物…など二十に分類した。その結果、例えば「月」の表現一つをとってみても、千年余の時空を超えて、著名作家の五七語が一堂に会すこととなった。時代を超えた“言葉の競演”が一目で視界に入るわけである。
     平安時代などの和歌は、俗を嫌い、恋の歌が多いため、時代の言葉を補完するために源氏物語や枕草子などの物語や歌謡からも幅広く採集した。
     採集にあたっては、時代の特徴ともいえる、同音を利用して一語に複数の意味を持たせる「掛け詞」の分類が問題となったが、紙幅の都合で複数箇所への分類はせず、その一語の持つ本来の意味で分類した。
     また、言葉の意味については、基本的に本書では省いている。時代により違うので、解りにくいものについては見出しの下に短く注を付けたが、三省堂の『大辞林』を開いていただくと、多数の古語の意味が充実して載っているので是非参照されたい。
     本書は「見たい言葉が一目で見渡せる」ように工夫したつもりであるが「詩語を含む多様な表現を分類する」という試みは必然的にファジーなものとならざるを得ない。意外なところで意外な言葉に出会う驚きも含めて、楽しんで頂けたら幸いである。見つけにくい言葉については、巻頭の五十音索引を引いてほしい(大見出し・小見出しの語がすべて引ける)。
     ふりがなは、採集した原典を踏襲するとともに、歴史的仮名遣いも含め、できるだけふった。時代によって同字でも読みの違うものも多く、多めに入れてある。
     本書ではひとつの表現でも、多彩な語尾変化を確認することができるので、実作に大いに参考になることであろう。好評をいただいている『五七語辞典』と同様、俳句・連句・短歌・川柳などの詩的表現を目指す多くの人たちに活用されることを願っている。
     最後に、この辞典を作るにあたって、日本独自の文化遺産である五音七音表現の和歌・連歌・俳句・短歌や歌謡・詩の作者と作品関係者に感謝申し上げる。(編者)