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「現代ジャーナリズム事典」の内容より

はじめに

はじめに

     いま、ジャーナリズムと社会を巡る状況は、大きく変化しつつあります。
     製造業を中心とする長期正規雇用体制を前提に維持されていた戦後日本型の社会システムは、グローバル経済の進展や、少子高齢化による国内人口構成の変化など多くの要因の重なりにより、いまや著しく安定性を失いつつあります。
     こうして社会システムが明らかな機能不全状態を呈しているのに、それに見合う抜本的な改革を打ち出せない政治に対する反発は強まっています。例えば未曾有の災害をもたらした3・11後初の国政選挙だったにもかかわらず、2012年末の衆院選が極めて低い投票率しか得られなかったことは歴史的事実として銘記すべきでしょう。その後の参院選や地方選挙でも同様の傾向はうかがえ、それは選挙制度ではもはや社会を変えられないという諦念が蔓延しつつある事情を如実に物語っているのではないでしょうか。
     このような社会情勢の中で、「選挙」とは別の回路を通じて社会に対するガバナンス機能を発揮すべきジャーナリズムの役割は、今まで以上に重大となっています。にもかかわらず、ソーシャルメディアを中心に厳しい批判がマスメディア・ジャーナリズムに対してなされ、ここでもまた強い不信感が表明されています。
     そうした「異議申立て」については個々に内容を精査すべきでしょう。報道の信頼性を根本から揺るがすような誤報や、マスメディア組織の中で不祥事が繰り返されているのは紛れもない事実であり、改善は喫緊の課題です。報道によって人権侵害などの被害が発生していないか、報道機関自らが、そして市民社会が、注意深くチェックする必要性は増えることすらあれ、減ることはありません。 
     加えて、ジャーナリズムが置かれた環境それ自体も大きく変わりつつあります。一方で「公益」の名の下に、言論表現の自由の制約を求める右派勢力の動きがあります。他方、デジタル技術は報道の現場をすっかり様変わりさせました。インターネットの普及は「放送と通信の融合」だけに留まらない、大きな地殻変動をジャーナリズムの世界にもたらしつつあります。先に挙げたソーシャルメディアの登場も、ジャーナリズム界の地図を大きく書き換える可能性をはらんでいます。

     このような時期にこそ、ジャーナリズムの来し方を省み、ジャーナリズムの行く末を検討する上で役立つ事典が求められている、私たちはそう考えました。
    私たちは「現在」がジャーナリズムにとって「危機の時期」であり、「変革を求められている時期」であるという認識をもっています。いま、ジャーナリズムは社会システムの変化を確かに見定め、伝えるべきことを正しく伝えているのか。それを改めて検証することでジャーナリズムは信頼を回復し、市民社会の中で孤立することなく自らの社会的使命を果たして、言論活動を守る闘いに臨む必要が生じています。
    マスメディア組織の内発的改革の担い手や、新世代のジャーナリストたることを志望する人たちが、こうした危機的状況に臨む際に必要となるであろう語彙や概念についての知識を提供したい。そしてソーシャルメディアを通じて「相互に発信しあい、検証しあう市民社会」を実現してゆく時に求められるジャーナリズムリテラシーを、職業ジャーナリストに限らず多くの人が手に入れられるよう手助けしたい、そんな考えで私たちはこの事典を編みました。
    ジャーナリスト、メディア関係者、研究者、学生、そして日常的にメディアに接し、情報を受けとめ、発信している多くの市民の皆さんにとって、『現代ジャーナリズム事典』が、いまを生き、いまを知るために役立つことを願ってやみません。

    監修者一同
    2014年4月1日