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「手紙文例・スピーチ例事典」について

まえがき

 本書は、手紙とスピーチの豊富な実例をまとめた、コミュニケーションの実際に役立つ事典です。

 今日の世界は情報の時代といわれ、通信をになうコミュニケーションの手段には、電子メールを始め、ファックスや電話などさまざまな方法があります。国内はいうにおよばず、設備さえあれば地球上のどことでも瞬時にして交信が可能です。一方、このような高度に発達した機械的通信手段のほかに、わたしたちは、実に素朴な通信手段である手紙というコミュニケーションの方法をもっています。季節の折々に出す挨拶状、祝賀の行事や慶事に向けて出される祝い状、礼を尽くして頼みごとをする依頼状、贈り物や厚意を受けたときの礼状、約束を違えたときのわび状など、さまざまな場面での手紙があり、機械的通信手段では実現できない、手紙でこそ伝えることのできる機微もあります。心のこもった手紙をもらったときのうれしさは誰でも経験のあるところでしょう。手紙は人と人を結びつける、他には代えることのできないコミュニケーションの手段です。

 ところが手紙には心得ておくべきいくつかの約束事があり、また、そこで使われる文章や用語には独自なものがあります。このことが分からないために筆無精になり、書くべき時機を逃してしまう人も多いようです。本書では、手紙を書いていて文章につまったとき、適切な用語を探したいときに役立つよう、豊富な実例を収録し、さまざまなケースに応じた言い換えの文例を付しました。また、手紙を書くにあたっての簡潔なアドバイスも所々につけました。

 スピーチもまた、ことばをつかったコミュニケーションの手段です。慶事や弔事などの特別の場合に限らず、最近は、地域社会や職場などの日常的な場面でスピーチを求められる機会が増えています。人前で話すのが苦手だといって避けていると、交際の幅をおのずから狭めたり、職場での評価の低下を招きかねません。本書の実例を参考に、さまざまな機会をとらえて、立場にふさわしいスピーチや挨拶ができるように心がけていれば、比較的楽に話ができるようになるものです。

 本書を通じて、読者のみなさまが、手紙の達人、スピーチの上手となられるよう願ってやみません。

1998年 7月

三省堂編修所