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「現代俳句大事典」について

発刊のことば/推薦のことば

【唱和のダイナミズム】(「発刊のことば」より抜粋)

大岡 信(監修者)

この大事典は現代俳句の広範囲の人物や事象に及ぶ諸項目を網羅しており、そこに書きしるされている諸観察は厖大な量に達する。それらは読者諸賢の存分の利用を待っている宝の山だと私は考えている。本書をいわば心の遊び場として渉猟してくださる読者が、一人でも多からんことを願っている。これはそのような利用をするのに極めて適している心の運動場だと思う。

いうまでもなく、俳諧文学は、いわば和歌文学の胎内から必然の勢いで誕生した文芸形式である。その歴史を過去にまでさかのぼろうとすれば、日本の歴史始まって以来のあらゆる文学形式にも縁戚関係を求めうるような、豊饒な図柄が出来上がるであろう。

俳諧文学の本質的な性格は、相手の声に応じて心と言葉を合わせ、こたえるという点にあった。唱和するということは、この短小な文学形式の本質をなしており、この形式が世界最短の文学形式といわれながら、きわめて長期にわたって生き生きと活動しつづけてきた理由も、この唱和のダイナミズムを保ちつづけているという貴重な性格にあることはいうまでもないだろう。この俳句大事典に戻っていえば、今言った唱和のダイナミズムは、事典を引く側にも当然生じうることである。

【推薦のことば】

草木みな、もの言う国の詩

歌人:岡野弘彦(おかの ひろひこ)

古く日本では、神や人ばかりか、虫や鳥も山川草木もみな、魂を持ち言葉を交しあいました。その心を永く後の世まで伝えて生きつづけているのが、日本の俳句です。

いま、人類の宗教が不幸なせめぎあいをしている時、やさしい庶民霊との交感によって生まれた日本の伝統詩の、現在に至る姿を詳細に伝える、『現代俳句大事典』の出版は、私のこの上ないよろこびです。

絶好の海図

国文学者:尾形 仂(おがた つとむ)

日本固有の伝統詩である俳諧は、近代に至り俳句として新生を遂げ、日本人の新しい詩情を表現するとともに、今やハイク・漢俳など海外諸国における新詩形誕生にも貢献しつつある。

本事典は、現代俳句の今日までの歩みと現在の地平を押さえ、明日の針路を見定めるための、絶好の海図としての役割を果たすことになるだろう。何よりも、著名俳句の適切な鑑賞と、近現代の代表句多数を収載していることが、利用者にとってはありがたい。

【待望の整理と案内】

作家:竹西寛子(たけにし ひろこ)

言葉を粗末にしない生活をするには、早くから日本のよい詩歌に馴染むのがよい。事典類による詩歌の整理と案内の役割は重いが、見識と情感をかねて、過去にとどまらず将来を見通してこの役割を果たすのは容易ではない。監修・編集にお人を得た『現代俳句大事典』が出版される。急速に表現領域を拡大した現代俳句の盛況に、拠り所の確かな整理と案内を求めている人は少なくないと思う。恩恵を受けるのは俳句関係者にとどまらないであろう。