英語で案内する 日本の伝統・大衆文化辞典

定価
3,850円
(本体 3,500円+税10%)
判型
四六判
ページ数
704ページ
ISBN
978-4-385-10489-8
寸法
18.8×13cm

日本を案内するすべての人に。日本を究めるすべての人に。

インバウンド観光ガイドに、日本研究の傍らに。
新旧の日本文化・社会を英語で案内・説明するための、固有名詞を含む8600項目を立項。

森口稔 編著/William S. Pfeiffer 英文校閲

  • 古代から現代に至るまでの歴史・宗教・政治・社会・日常生活・芸能・固有名詞など,日本の伝統文化・大衆文化のキーワード8600を英語で解説した日本案内辞典。
  • 歴史上の人物や寺社仏閣から,現代日本の大衆文化に至るまで,幅広く紹介。
  • コンパクトで的確な解説は,外国人に新旧の日本文化を案内するには最適。

特長

さらに詳しい内容をご紹介

まえがき

 日本は,かつて,自らを「神国」と呼び,Japan as Number Oneと持ち上げられて有頂天になり,「もう,欧米から学ぶものは何もない」という言葉まで聞こえた時代もあった。しかし,昨今は,経済力や技術力において,往年ほどの国際社会における勢いが感じられなくなってきた。その巻き返しのためか,政府は「クール・ジャパン」をキーワードに観光立国を喧伝し,各地の経済も「おもてなし」を合い言葉として,インバウンド観光客の増加に期待を寄せている。事実,和食,マンガ・アニメ,忍者など,日本文化は海外に幅広く浸透しつつある。
 しかしながら,そういった様々な日本文化を幅広く,かつ,手軽に説明している辞書は,現在のところほとんど見当たらない。日本文化を英語で説明する類の書籍は数多く出版されているにもかかわらず,1冊で網羅している辞書が存在しない状況と言える。こういった背景を踏まえ,本書を世に送り出したい。
 本書を一言で説明するならば,日本に関する様々な項目を扱った和英辞典+英文百科事典である。その特徴は,次の8点である。

(1){日本に関する項目を網羅的に収録}:日本を紹介する際に,誰しも思いつくのは,上述した和食やアニメに加え,神社仏閣,着物,文楽・歌舞伎・能,茶道・華道などである。しかし,日本独自の文化はそれに留まらない。古代から現代までの歴史の流れを踏まえ,かつ,現在の日本の姿を知るためにも,政治・経済,科学技術,スポーツ,動植物,自然,生活など,広範囲の分野をカバーする項目を収録した。たとえば,「日経平均株価」「ノルディック複合」「フォッサマグナ」なども見出し項目にしている。

(2){各分野の詳細項目を収録}:日本全般を紹介する書籍で,「忍者」「寺院」「茶道」などが記載されていない書籍はほとんどないだろう。しかし,そういった大項目ではなく,その内部の詳細な用語にまで踏み込んでいる書籍はあまり見かけない。本書では,たとえば,忍者の武器である「苦無」,仏像の「二十八部衆」,茶道の「貴人立て」など,少しマニアックと思われる用語も独立した項目として収録している。

(3){固有名詞を収録}:上記とも関連するが,固有名詞も積極的に収録した。織田信長,鑑真,関孝和,アーネスト・フェノロサなどの歴史上の人物,『古事記』『今昔物語』『奥の細道』などの作品名,東京都庁,日本経済団体連合会,徳川美術館などの機関・施設,JR,日本経済新聞などの交通やマスコミ関連企業などもカバーしている。

(4){見出し項目の英訳}:各項目の語義は,上述した和英辞典的要素として,その見出し項目の英訳から始めている。説明的になりすぎず,数語の英単語だけで表現するように努めた。

(5){長すぎない説明と参照指示}:見出し項目の英訳の後には,20語から100語程度の百科的説明を加えた。また,関連する項目は,本文内のスモールキャピタル(小型大文字)や矢印等によって参照できるように配慮した。

(6){類義項目の違いの説明}:類似の項目がある場合,できる限り,その違いを説明するように努めた。たとえば,「浪人」と「浪士」,「浄土教」と「浄土宗」,「仲人」と「媒酌人」などの違いは,それぞれの説明を比較すれば理解できるようにしたつもりである。

(7){日本語の長音のローマ字表記}:日本語の長音のローマ字表記については,現在,一般化されているものとは異なる方法を,敢えて採用した。現在,日本語の「太郎」をローマ字表記する際,Taroと書くことが多い。そうでない場合も,せいぜい,Tarōと,oの上に長音記号を付加する程度であり,「たろう」をそのままアルファベットにすることは比較的少ない。しかし,本書では,以下の理由から,Tarouと表記している。まず,数多くの日本語を扱う場合,長音と短音を区別して表記しなければ,混乱を招くためである。たとえば,本書では「近江」「臣」「大臣」のいずれをも見出し項目として記載している。もし,「おう」「お」「おお」のすべてをoと表記すれば,それぞれがomi,omi,oomiとなり,混乱は必至となる。それならばōと表記すれば良いのではないかという意見もあるかもしれないが,今後,世界中の多くの人々が日本語の長音を書こうとする場合,一々,長音記号を打つのは煩雑きわまりない。加えて,電子化された際の表示の問題がある。今後も様々な電子機器が発達した際,常に長音記号の表示が可能かという不安感は拭えない。さらに,外国人の日本語学習の点からも,「近江」はOumiと表記されるべきだろう。仮に,「近江」をOmiと覚えた外国人学習者がワープロに向かうとき,Omiと打てば「臣」が表示されてしまうことになる。ただ,英語化していると思われる表現や,施設などについて,運営している団体などが正式な英文名称をつけている場合には,特に当該項目内においては上記の原則から外れ,可能な限りその名称を採用した

(8)分野表示:すべての項目に,1つまたは2つの分野表示を加えた。2つの分野が付加されている項目は,その2つが重なっている場合も,その2つのどちらにも適応できる場合もある。たとえば,「仏教・美術」という分野が付加されている項目は,仏像や仏画などであることが多い。一方,「シテ」は「能・狂言」という分野が付加されているが,この場合は,能の用語でもあり狂言の用語でもあることを示す。

 本書の企画構想は2012年辺りから始めたが,その後,出版に至るまでに多くの方々のお世話になった。心からお礼申し上げたい。まず,執筆者や執筆協力者,さらに,英文校閲をしていただいた恩師のウィリアム・S・ファイファー先生。また,本書の企画を取り上げていただいた三省堂の山本康一氏や側面からサポートいただいた坂本淳氏,中でも,遅れがちになる執筆に辛抱強く付き合い,最後の最後まで面倒を見ていただいた西垣浩二氏には,感謝の言葉も尽きない。
 編纂を開始した当初は,常に,「日本とは何か」を意識しながら見出し項目を収集したが,カバーし切れていない項目も多々あるし,候補に挙げながら力及ばず記載を断念した項目もある。また,編纂に際しては多くの参考文献に当たったが,誤解や記載ミスが起きているとすれば,編者の力不足というほかはない。ご指摘いただければ,今後の糧としたい。
 最後になるが,本書の英語名はA Dictionary of Japan in Englishであり,仲間内ではこれを略してDOJIEとし「どうじ」と呼んでいる。簡単な雑用を言いつければ,飛んできてささっと片付けてくれる小さな子ども。多くの文献を調べずとも,とりあえずの説明ができる手軽な辞書。本書に対してそんなイメージを持っていただければ,この上ない幸いである。

2018年5月
森口 稔