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「三省堂 英語イディオム・句動詞大辞典」の内容より

まえがき

本書『三省堂英語イディオム・句動詞大辞典』は、『新クラウン英語熟語辞典』(第3版)を25年ぶりに全面的に増補改訂して、三省堂創立130周年を記念して出版するものである。

本辞典の最大の特色は、たいていの英米のイディオム辞典のように現代英語で使用されているイディオムおよび句動詞に限らず、欽定英語訳聖書(AV)、シェイクスピア以降現代英語に至るまでの英語文献に現れ、かつ、現在も廃語となっていない英語のイディオムおよび句動詞を集大成することを目的としている点に求められる。つまり、本辞典の第一目的とするところは、そういう幾世紀にもわたる英語文献を読み解く際の強力な手助けを提供することである。例文中にObama、Bush、Clinton、Kennedy、Truman、Hussein、binLadenなどの時事的記事と並んで、AV、Shakespeare、Pope、Byron、Tennyson、Stevenson、Kiplingなどからの引用や、現在は使用されていないshilling、farthingなどの通貨単位が現れたとしても、それは正当に本辞典の守備範囲に入るものであることと了解されたい。

今回の全面的な改訂増補の大きな特徴は,次の4つであろう。

  1. 収録項目数の飛躍的増加――参考文献に記してある、英米で最近出版された17冊のイディオム辞典と7冊の句動詞辞典にあって旧版にない項目を残らず取り入れたこと。その異形も含む総数約3万足らず。四半世紀の間にこれだけの新イディオムと新句動詞を創出した英語国民のバイタリティーにはただただ感じ入るばかりである。
    この強力な補強によって新イディオムおよび新句動詞が約3万項目増え、収録総項目数は合わせて約8万5千に及ぶ。項目数増加に伴う総用例数も約8万例を数え、こちらも飛躍的な増強が実現した。現時点で国の内外を見渡しても、その収録総項目数および総用例数において本辞典の右に出るものは皆無であると自負している。
  2. 最大限のコーパスの利用――従来ありえなかった特色は、インターネット時代を反映するコーパスの活用である。新しく採録した項目はもちろん、従来の例文のあきたりないものも、すべてコーパスの英語を利用して書き改めるように努めた。これらは、AltaVista(現在はYahoo Advanced Web Search)、News Archive、British National Corpus(BNC)、Time Magazine、Corpus of Contemporary American English(COCA)、Googleなどのアメリカ英語とイギリス英語の生態を記録した大規模コーパスである。
  3. 句動詞の可視化および自・他の区別――ある動詞句が句動詞(phrasal verb)であることをPhVというロゴマークで明示するとともに、句動詞全体の他動性(transitivity)(i.e,自動詞・他動詞の区別)を自他 というロゴマークによって明らかにした。たとえば、 arrive atという句動詞の場合、arrive at the stationのように「(場所)に到着する」という意味では自動詞(PhV自)であるのに対して、arrive at a conclusionのように「(結論など)に達する」という意味では他動詞(PhV他)である。それは、No conclusion was arrived at.「いかなる結論にも達しなかった」のように受身が可能であることから明らかである。
  4. 判型の変化――内容の飛躍的増大に対処するため判型(format)を変更して、新版はA5判にし、ために書名も「大辞典」に改めた。

    その他の特徴を追加するならば、

  5. 句動詞など句義数が多く多岐にわたるものは、 追い込みをやめて句義ごとに改行して、 検索の容易なuser-friendlyなものに変えた。
  6. 参考事項の充実――指マークを用いてイディオムの歴史文化的起源・出所、なぞり(calque)の原形、 原義、 用法上の注意、 その他イディオムの理解に資する説明を付した。 イディオムの知識をできるかぎり立体化させたいためにほかならない。
  7. 反意句・同意句・異形の併記――スペースの許すかぎり反意句(⇔)・同意句(=)を掲げた。 特に、イディオムの異形は余さず併記することを旨とした。
  8. 相互参照(cross-reference)を徹底して、引きやすいものにした。

 

この辞典の構想が検討され始めたのが2007年、執筆が開始されたのが2008年で、完成に足かけ4年の年月が費やされた。その間、原書辞典にあたって旧版にない新資料を渉猟された調査協力者のかたがた、それに基づいて原稿の執筆・校正に全力を注がれた編集委員、英文校閲そのほかの協力者のかたがたのご尽力に対しては、いくら感謝しても感謝しきれないものがある。また、三省堂辞書出版部外国語辞書第一編集室編集長の寺本衛氏、同編集室の東佐知子氏の有能かつ献身的なご援助に対して心から御礼を申しあげたい。私自身も、本辞典全体の編集方針の決定、項目の執筆はもちろん、数度にわたる校正のすべてに綿密に目を通したので、本書の内容に対する最終の責任は、もちろん編者としての私が負わなければならない。
純新刊といってもよいほどの新装となった本辞典が数多くの読者に愛され、この国の英語の研究と学習にいささかでも寄与することができれば、これに過ぐる喜びはない。

2011年4月

安 藤 貞 雄