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「クラウン独和辞典」について

第4版の序にかえて

『クラウン独和辞典』の4度目の生まれ変わりに当り,成立を待たずに他界された国松孝二・濱川祥枝両東京大学名誉教授の霊前に感謝の祈りを捧げつつ関係者一同と喜びを分かち合いたいと思う.国松先生は辞典創始についての偉大な貢献者であり,濱川先生は初版以来主幹としてまた監修者として私たちと机を並べて編修作業の先頭に立ってこられた.思いもよらず第4版の工程半ばで先生を失い,一家の大黒柱に置き去りにされた家族のように私たちは一時途方に暮れたが,辞典を完成させることこそ先生の霊を慰め恩顧に報いる道であると気を取り直し,編修委員一同結束を新たにして作業を継続し,ここに第4版を世に送ることができた.

辞典が時代の世相を映す鏡であるとすれば,時時刻刻に移り変わる言葉を追って辞典も絶えず動いて行かなければならない.思えば辞典の編修は因果な作業である.いったん始めたらもはや立ち止まるわけにはいかず,継続するしかないし,完成することがない.『クラウン独和辞典 第4版』の編修も5年前に第3版の上梓成った直後から始まった.新語の補充や廃語の除去,意義の改変や追加,各項目にわたる記述の見直しなどの通常の作業に加えて,想定外のエネルギーを傾注しなければならなかったのはドイツ語正書法の問題である.当初は1995年8月から完全実施の手筈だった百年ぶりの改革は,新表記案に対する各方面での異論や逡巡がドイツ国内で予想以上に強く,このため2004年末に設置された正書法委員会がさらに検討を加えて提出した2006年2月末の勧告を待ってようやく関心者の愁眉が開け,2006年8月1日からこの勧告に則った方式が公式に実施される運びとなったのである.勧告は一部新旧両表記も認める折衷的なものであるため本辞典ではその記載法に苦心した.本書『クラウン独和 第4版』は2006年3月に決定した最新の正書法公式規則を採り入れた日本で最初の独和辞典である。

新表記への対応としては正書法インデックスのほか,必要に応じてつづりマーク欄を新設して解説を加えた.更に今回は基本語の選定基準を抜本的に更新し,発音の仮名表記を大幅に増加し,代名詞や固有名詞の記述を改め,和独インデックスを全面的に書き直した.また第4版では語義が多岐にわたる語に添える要点記載の枠組みをここがポイントマークと名づけた.このほかにも複合マーク欄の改稿,文体相や専門用語表示の見直しなど細部にわたってさまざまな工夫と改訂を加えて内容のいっそうの充実と使用の便宜を図ったが,初心者にも分かり易く,専門家も飽きさせないという初版以来の基本編修方針は変わっていない.

この間利用者からお寄せいただいた数数の貴重なご意見やご指摘は,第4版の編修に当って大いに参考にさせていただいた.このことに対しこの場を借りてお礼を申し上げ,併せてこの第4版についても利用者各位の忌憚のないご意見やご批判をお願いしたい.

第4版刊行に先立ち,本辞典の発音上特に重要な語の音声を収録したCD付きの第3版も2006年2月から刊行して時代の趨勢と利用者の要望に応えたが,幸いにも好評を得たので,第4版はすべてCD付きとした.なおCDには辞書の記述とは別の日常会話表現も付加して,実用的活用の便宜も図った.

『クラウン独和辞典』には当初から特定の著者はいない.第4版も前頁に名を掲げる編修委員と校正協力者その他の仲間の協力の所産であり,主幹もその一人に過ぎない.ただ内容については主幹を含む編修委員が責任を負う。第3版まで委員の一人として協力した楢原良行は残念ながらこの版では参加できなかった. 言うまでもなく第4版は過去の成果の蓄積の上に成立したものであり,初版の企画以来関与された多くの協力者の方方への感謝をけっして忘れるものでははい.

私たちが団結して出し合った知恵と努力の結果を,最新の技術を駆使して具体的な姿形に実現してくださった三省堂ならびに三省堂印刷株式会社の方方のご好意とご尽力に衷心よりお礼申し上げる.そして最後になったが,企画から完成に至るまで身近にあって絶えず私たちを支え励ましてくださった柳百合編集長をはじめとする三省堂外国語辞書編集室のみなさん,とりわけ第3版に引き続きいわばマネージャー役として作業進行の手筈一切を取り仕切ってくださった同編集室の宇野由美子氏の手腕と熱意に,編修委員を代表してここにあらためて深い敬意と感謝の念を表したい.

 2007年 晩秋

信岡 資生