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勉強工学 - Web時代の学習法 第5回

2007年 12月 17日 月曜日 筆者: 増井 俊之

第5回 寝ながら勉強

寝ている間に勉強できたら楽だろうというわけで「睡眠学習」という言葉をよく耳にしますが、本当に効果があったという話は聞いたことがありません。睡眠中に新しく何かを覚えるのはどうやら難しそうですが、睡眠中も脳は働いているわけで、睡眠中の脳を有効に利用することは実際に可能なようです。

発想支援の参考書として有名な「アイデアのつくり方」という本では、良いアイデアは以下のような5段階を経て創られるものだと述べられています。

  1. 1. 基礎資料を充分に集める
  2. 2. 資料を関連付けて咀嚼する
  3. 3. 別のことをやるなどして熟成させる
  4. 4. アイデア出現!
  5. 5. 人の評価をあおいで発展させる

何も無いところからアイデアを創り出ことはできませんから1.は重要ですし、よく考えなければ良いアイデアが出るわけがありませんから2.も重要なのは当然ですが、3.に関しては何か努力をする必要があるわけではなく、別のことをやりながら頭の中でバックグラウンド処理をさせておけば自然にアイデアが発生するものだというのがポイントです。
つまり、アイデアの元となる情報を集め、それについて充分検討しておけば、あとは寝ているだけでアイデアが出たり解法が見つかったりするというわけです。

そんな都合の良い話があるものか? と疑問に思う方も多いでしょうが、私は実際にこれがうまくいった経験があります。

以前、垂直に打ち込んだ1本のクギの上に同じクギを12本載せるには?というパズルを解こうとして四苦八苦したことがあり、実際にクギを沢山買ってきていろいろ試しているときは全く解法を思いつかなかったのですが、それから一月ぐらい経った朝、目が覚める直前に突然正解が脳裏にひらめきました。
寝ているだけで問題が解けることもあるものだなぁ、とその時は結構驚いたものです。

また別の機会に、コンパスで円を描くだけで2点の中点を求めるには?という問題に苦しんだことがあるのですが、やはり一月ぐらい悩んだ後、目が覚める直前に解法の鍵が頭にひらめきました。
どうやら目が覚めているときと寝ている時では脳の働きが違うようで、寝ている時の方が柔軟で全体的な考え方ができるような気がします。

難しい問題を解く場合や、複雑な条件がある問題を解決する場合は、情報を集めた後でとりあえず寝るというのが実は最も有効な方法なのだろうと思います。

睡眠状態をもっと積極的に楽しもう! という試みとしてLucid Dreamingという技術があるそうです。夢の中で意識を持って行動することは普通は不可能ですが、修練すれば、夢の中だということを理解しながら意識的に好きな行動をとることができるようになるのだそうです。
自分の夢の中では空を飛ぼうが破廉恥をしようがやりたい放題ですから、自由に夢の中で行動できるようになれば、コストパフォーマンスが最高の趣味になるかもしれません。

この技術を習得したあかつきには、自分が現在夢の中にいるのか現実世界にいるのかを判断する「Reality Check」技術が重要になるのだそうです。夢の中では崖から飛び降りてもかまいませんが、現実世界ではやめておくのが無難です。
たとえば「急に後ろを振り向いたとき何が見えるか」が Reality Check として有効なのだそうで、ありえないものが見えた場合は夢に間違いありませんから崖から飛び降りても安心だということになります。

私は残念ながら Lucid Dreaming はまだ習得していませんし、崖から飛び降りるか悩んだこともないのですが、睡眠しながら考えをまとめる方法は明らかに役にたつようなので、今後も活用しようと思っています。


■筆者プロフィール

増井俊之

東京大学大学院修了,工学博士。
ユビキタスコンピューティング時代のユーザインタフェースに興味を持つ。
ソニーコンピュータサイエンス研究所,産業技術総合研究所を経て,
現在,米Apple Inc. 勤務。
著書に『Perl書法』『インターフェイスの街角』などがある。
ウェブサイトはpitecan.com

◆編集部より:POBoxやQuickML, 本棚.orgなど数々のシステムやサービスを作り,最近ではiPod touchの日本語入力システムを手がけたことで知られる,増井俊之さんの「勉強工学 — Web時代の学習法」を連載します。第4回は12月3日の掲載でした。これからもまだまだ続きます。乞うご期待!

2007年 12月 17日