社会言語学者の雑記帳1-1
2008年 1月 9日 水曜日 筆者: 松田 謙次郎【編集部から】
新連載「社会言語学者の雑記帳」は、「人がやらない隙間を探すニッチ言語学」者・松田謙次郎先生から キワキワな話をたくさん盛り込んで、身のまわりの言語現象やそれをめぐるあんなことやこんなことを展開していただきます。第1回は「最高のフィールドワーカーの条件」。
最高のフィールドワーカーの条件1
言語学者というと、辞書や古文書、文法書、さらに最近ならパソコンを相手に一日中難しい顔をしてヒッキーしている、なぜか昭和テイストなメガネをかけて真面目そうな、そしてなぜかむっつーりしたおぢさんを想像しませんか? しかし、中には「書を捨てて街へ出よう」(←死語?)という分野もあり、録音機を持って人の話を採りに行くのが研究の半分位を占めている、フットワークの軽い人たちもいたりします。社会言語学や談話分析などはまさにそういう領域で、そう、これこそフィールドワーカーの世界です。
かく言う私もその昔、アメリカでこうした授業を取ったことがあります。そこでは学生で4,5名のグループになり、テープレコーダを持って市内の指定された地域に行き、そこで手分けして家々を尋ねては、1時間ばかり時間を割いて自由に話をしてくれる人を探すのです。次の授業では、インタビューをまとめ、出された課題をグループで発表させられ、テープを提出しないといけません。地域によっては物騒ですし、そもそも、たどたどしい英語を話すテープレコーダを持った日本人男性をホイホイと入れてくれるほど、アメリカ都市部はナイスピーポーばかりのピースフルな場所でもありません。飛び込み営業マンよろしく一日中歩き回り、断られ続けたことがほとんどです。時にはいきなり「アウト(出てけ)!」と怒鳴られたことも(T_T)。次の授業でいいインタビューをモノにした友人を見ると、無性に嫉妬に燃えたものでした。オー、シット。
確かその授業の中でだったと思うのですが、担当教授がある日、「最高のフィールドワーカーの条件を教えてやろう」と言ったことがあります。苦労を重ねて疲労の色を浮かべつつ、固唾を飲んで待つ我々。業界の第一人者が語る名人像とは、いったい何か?もしかするとこれがこの授業最高の収穫になるかも。そんな期待でパンパンに膨らむ我々に、教授の一言。「それは、背が低くて元気のいい女性だ」。( ゚д゚)ポカーン
背が低くて元気のいい女性。確かに少なくとも社会言語学の世界では、名フィールドワーカーとして知られてきた人には、そうした女性が多いのは事実です。著名なアメリカ人の社会言語学者でこの授業を取った人がいますが、その町の出身であるにもかかわらず、まったくインタビューが取れなかったと教えてくれました。彼は楽に190センチ、髭を蓄えた見上げるような堂々たる巨漢です。授業でも、外国人であっても背の低い女性はだいたい無難にフィールドワークをこなし、いいインタビューを取ってきていました。しかし、単に私のように背が低いだけではダメで、女性でないとこの効果が出ないという所がミソです。(´゚’ω゚`)ショボーン
これはどういうことなのでしょう。それは、話し手が警戒心を抱かず、インタビューでも気安く話してくれるということのようです。女性でしかも背が低いから、自分に危害を加えそうもないし、元気で人見知りしないから話す側も気軽に話しやすい。よって、たとえ背の高い元気のない男でも全く可能性がないわけではありませんが、人はやはり背の低い女性には警戒心を抱かないもののようです。この場合、たとえ背の低い男が女装してもアウト!であることは言うまでもありません^^
しかし、たとえ自分が男で背が高かったとしても、絶望するには及びません。フィールドワークでは、外見以外のテクニックで男であったり背が高かったりするハンディ(!)をカバーできる点がいくらでもあります。たとえば……
⇒この続きは次回に。
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【筆者プロフィール】
松田謙次郎(まつだ・けんじろう)
神戸松蔭女子学院大学文学部英語英米文学科、大学院英語学専攻教授。Ph.D.
専攻は社会言語学・変異理論。「人がやらない隙間を探すニッチ言語学」と称して、自然談話データによる日本語諸方言の言語変化・変異現象研究や、国会会議録をコーパスとして使った研究などを専門とする。
『日本のフィールド言語学――新たな学の創造にむけた富山からの提言』(共著、桂書房、2006)、『応用社会言語学を学ぶ人のために』(共著、世界思想社、2001)、『生きたことばをつかまえる――言語変異の観察と分析』(共訳、松柏社、2000)、『国会会議録を使った日本語研究』(編、ひつじ書房、2008)などの業績がある。
URL:http://sils.shoin.ac.jp/%7Ekenjiro/







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