三省堂国語辞典のすすめ

その3 にやっと、新明国。すとんと、三国。

筆者:
2008年2月20日

『三省堂国語辞典』の兄弟分の辞書に『新明解国語辞典』があります。略称、新明国。人々の間には「新解さん」の愛称も広まっています。

「新明国」と「三国」
【「新明国」と「三国」】

『三国』と『新明国』とは、同じ辞書(『明解国語辞典』)から分かれ出たものですが、語釈のしかたを見ると、大きな特徴の違いがあります。

『新明国』の語釈は、よく話題になるとおり、ことばの微妙な陰影をうまく表し、思わずにやっとしてしまうものが多くあります。たとえば、「暴れん坊」を引くと、子どもの暴れん坊の説明の次に、〈青春のはけ口を活発な行動に求め、時には世人のひんしゅくを買いかねない人。〉とあります。なるほど、暴れん坊の若者は、あれは青春のはけ口を求めているわけか、と妙に納得します。『三国』では、この項は〈乱暴な行動をする男。あばれんぼ。〉とかんたんです。

こういうところを見ると、『三国』はつまらないではないかと思われそうです。しかし、このような部分にこそ、『三国』の編集の苦労があります。まず、「あばれんぼ」の語形もあることを示したのは、私の調べた範囲では『三国』が最初です(第三版から)。そして、語釈がかんたんに書いてあることによって、「暴れん坊将軍」「政界の暴れん坊」などの場合にも広く当てはめることができるという長所があります。

「アザミ」をどう説明する?
【「アザミ」をどう説明する?】

『三国』の語釈の方法は、読む人の胸にすとんと落ちるように、かんたんに書くことです。たとえば、植物の「アザミ」はこうです。〈とげの多い野草の名。タンポポに似た赤むらさき色の花をひらく。〉つまり、アザミは、タンポポにとげをつけて、花の色を赤紫にしたと思えば、まあ間違いないと言っているのです。たしかに、どちらもキク科の植物ですから、根拠はあるわけです。

ここも「国際海峡」のひとつ
【ここも「国際海峡」のひとつ】

今回、「国際海峡」ということばが載りました。このことばは、もともと条約で定義された用語です。〈公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡〉というのですが、非常にややこしく、誤解されやすい定義です。『三国』ではこれを〈一国の領海に属するが、迂回(ウカイ)しにくいために、国際航行に使われる海峡。〉としました。読者の胸にすとんと落ちれば、さいわいです。

筆者プロフィール

飯間 浩明 ( いいま・ひろあき)

早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。

URL:ことばをめぐるひとりごと(//www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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編集部から

生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され(※現在は第七版が発売中)、各方面のメディアで取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。