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WISDOM in Depth: #17

2008年 2月 26日 火曜日 筆者: 赤野 一郎
【編集部より】
辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます。第17回は編者の赤野一郎先生,3回目のご登場です。

コーパスが英和辞典を変える(3)

基本語を「知っている」とは?

現行の学習指導要領では中学校における英語の必修単語は900語という総数が定められている。教科書によって900語の内容は異なるが,いずれの教科書も共通して扱っている語がある。名詞に限っても,wind, way, ideaなど英語における基本語といわれるものである。これらの単語を「知っている」とはどのようなことを意味するのだろう。それぞれの単語の意味が「風」,「方法,道」,「考え」だと言えれば,これらの単語を「知っている」と言えるのだろうか。では「風が吹く」,「風が強まる」,「風がやむ」は英語でどのように表現するのか。多くの中高生は「風が吹く」を除いて答えることができない。単語を「知っている」とは,その語の意味が認識できるだけでなく,その語にまつわる状況を表現できて初めてその語を「知っている」と言えるのである。windと言えば,blow (吹く), pick up (強まる), die down/stop (やむ) が即座に思い浮かばなければならない。『ウィズダム英和辞典』ではこのような語と語の典型的な結びつき,すなわちコロケーション情報を「表現」の囲みで提供している。

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さらに基本語を「知っている」と言えるためには,上で述べた語彙的パターンであるコロケーションだけでなく,基本語が持つ文法的パターンを知ることも重要である。その抽出と分析にコーパスが威力を発揮する。たとえば,wayという語はコーパスで分析すれば,‘限定詞+(形容詞)+ of doing’, ‘限定詞 +(形容詞)+ to do’, ‘in + a/an +(形容詞)+ way’, ‘the way + that節’, ‘動詞 + one’s way + 前置詞句’などの多様なパターンを有することがわかる。その1つが‘the way + 節’で,以下のコンコーダンスデータが示すように,このパターンには4つの意味用法があることがわかる。

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『ウィズダム英和辞典』ではこの分析結果をwayの語義2に反映させている。

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頻度の観点から2番目にもってきたことと,a~dの4つに分けて詳述できたのは,コーパス分析のたまものである。現代英語の使用実態を反映しているという点で,この用法にこれほどのスペースと重要性を与えた辞書は他にないと自負している。


【筆者プロフィール】
赤野 一郎  (あかの・いちろう)

京都外国語大学教授。
専門は語用論,コーパス言語学,辞書学。
編著書には『英語コーパス言語学』(研究社出版)など多数。

2008年 2月 26日