WISDOM in Depth

#22 コーパスが英和辞典を変える (4)

筆者:
2008年3月25日

機能語を「知っている」とは?

単語は内容語 (content word) と機能語 (function word) に大別することができる。内容語とは,事物の名称,性質,状態,動作,様態などを表す語で,品詞で言えば,名詞,形容詞,動詞,副詞に相当する。機能語とは,内容語と異なり意味内容が希薄で,文法構造上の関係を示す語で,前置詞,接続詞,冠詞に当たる。

では後者の機能語を「知っている」とはどのようなことを意味するのだろうか。接続詞 that を例に考えてみよう。「接続詞thatの意味は何ですか」と問われても戸惑う。でもその働きは何ですかと問われれば,「that は名詞の働きをする従属節を作ります」と答えることはできる。このように機能語を「知っている」ということは,まずその働きを知っているということを意味する。たとえば ‘the fact that . . .’のように同格節を導く名詞について,文法書 (Quirk et. al. A Comprehensive Grammar of the English Language) には次のような解説が見られる。

appositive that-clause: the head of the noun phrase must be general abstract noun such as fact, idea, proposition, reply, remark, answer and the like.

同格節を伴う名詞は意味範囲の広い抽象的な名詞であること,fact, idea, proposition, reply, remark「など」がその例であることがわかる。文法書ではこの解説で十分だが,これら5つの単語以外の名詞が同格節を伴うかどうかについては,文法書は教えてくれない。‘. . . and the like’(「…など」)の中身が重要になる。機能語を「知っている」とは,その働きとコロケーションを知っているということなのである。

コーパスを活用すると,同格節を導く名詞のコロケーションの中身がたちどころにわかる。『ウィズダム英和辞典』では,「語法」の囲みで以下のように提示し,特に頻度の高い語は太字で示されている。

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また「作文のポイント」では,日本人学習者がいかにも間違いそうな事例を示し,注意を促している。

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筆者プロフィール

赤野 一郎 ( あかの・いちろう)

京都外国語大学教授。
専門は語用論,コーパス言語学,辞書学。
編著書には『英語コーパス言語学』(研究社出版)など多数。

編集部から

辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典 第2版』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます(※2018年7月現在、ウィズダム英和辞典は第3版が刊行されております)。