英語辞書攻略ガイド

(1) 辞書は悪者?

筆者:
2008年3月28日

欧米人にとって,犬は“a person’s best friend”であるとされていますが,“a language learner’s best friend”といえば,やはり辞書なのではないでしょうか。名を馳せた英語学者の中には,辞書を胸に抱いて寝たり,辞書を丸暗記し,覚えたページは食べてしまったりした人もいたそうで,英語学習が「辞書に始まり,辞書に終わる」ことは昔も今も変わりません。

しかし,最近では電子辞書が普及したためか,英語教員の中には辞書を悪者扱いする人も少なからずいるようです。

先日,私の英語の授業で,机の下でコソコソ何かをしている学生がいたので,内職でもしているのかと注意しようとしたら,教科書の分からない単語を電子辞書で調べていたということがありました。英語の授業中に辞書を引くのは当然のことであり,なぜ堂々と引かないのかと聞いたら,高校の頃,授業中に辞書を引いたら没収されたので,こっそりと引く癖がついてしまったと言われ,驚きました。「知らない単語が出てきても絶対に辞書を引いてはいけない」「辞書に頼っていては英語力がつかない」などと,辞書を敵対視しかねない風潮が,とくに英語母語話者や上級レベルの英語学習者で増えてきているのは残念なことです。

たしかに,速読の練習や,入試や資格試験の問題演習など,辞書を引かないほうがよい場合もあるでしょう。一方で,辞書を引くことで,自信を持って英語を理解することができるようになる場面もたくさんあるはずです。言語の森羅万象を凝縮した「ことばの四次元ポケット」である辞書は,正しく使えば英語を学んだり,教えたりする際の強い味方になってくれるのです。

この連載では,主に高校の英語の先生方を対象に,辞書の選び方,使い分け方といった基本的なことから始め,日々の教材研究や英語学習に役立つ様々な辞書の活用法をお話ししたいと思います。最近は電子辞書が普及していますが,お手元にある冊子辞書を手にとってみてください。最新の電子辞書でさえ到底太刀打ちできない,冊子辞書ならではの特徴にも気づいていただければと思います。

次回は,冊子辞書と電子辞書を比較し,新学期の辞書指導ですぐに使えるアイデアをいくつかお話ししたいと思います。

筆者プロフィール

関山 健治 ( せきやま・けんじ)

1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。

編集部から

新学期にあたり,英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を短期集中連載していただきます。