クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(3)
2008年 3月 31日 月曜日 筆者: 福本 義憲【編集部から】
このたび『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。
「ふせん」と遊ぶ
手もとにあるクラウン独和の初版(1991年発行)には、びっしりと「ふせん」が貼ってある。見出し語のレターがほとんど見えないほどである。刷が変わり、版が変わる度に「ふせん」のお世話になる。その間に出会って、まだ収録されていない語や書き直しのアイデアを書き付けて貼っておくのである。もちろん、そのうちで次の刷(あるいは版)に採用されるのは、けっして多くはない。実際には、見出し語を追加するにせよ、記述を改正するにせよ、さまざまな考慮を働かせなければならないからだ。いずれにしても、この小さな「ふせん」が改訂作業になくてはならないツールであることは間違いない。
この「ふせん」なる「もの」に出会ったのも、クラウン独和の編集を通じてだったと思う。「ふせん」は「付箋」なのだが、この言葉を初めて聞いたのはいつ頃だったろうか。その古風な響きに不思議な感覚を味わった。最初は、例の「剥がれる糊」の「発見」によって生まれた「ポストイット」だった。それがいつの間にか平仮名の「ふせん」になった。いまでは辞書の改訂はもちろん、本を読むときの「しおり(栞)」代わりにも使っている。仕事机の上には「ふせん」のなれの果てがいっぱい散らばっている。
改めてクラウン独和の初版に貼り付けた「ふせん」を眺めてみると、初版だったこともあって、二版以降の版に収録されているものがかなりある。初版の「ふせん」の例をいくつかあげると、dichtmachen、Tierheim、sabbern、V-Mannといった語が新に丸をつけて貼り付けてある。これらは、二版以降の版には収められている。この他、Rezipient、Windmacherといった語も「ふせん」に書きとめられているが、収録されないままである。Rezipient(受容者・受信者)はある特定の分野ではよく使われるが、専門的すぎると感じられるせいだろう。Windmacher(ほら吹き)は面白い言葉だが、それほど頻繁には出てこない。このように採否の判断はつねに微妙である。
それでは「ふせん」はドイツ語で何というのだろうか。どうやらKlebezettelとかHaftnotizとかいう語に相当するらしい。Klebezettelは収録されていて、「(裏に糊の付いた)ラベル、ステッカー」と訳されている。これはむろん正しい語義である。これに「ふせん」(それとも「付箋」)の訳語を加えべきか。そしてHaftnotiz も新語として収録すべきか。さっそく第四版の「ふせん」に書いておこう。採否はやはり微妙である。
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【筆者プロフィール】
福本 義憲(ふくもと・よしのり)
東京都立大学教授
専門はドイツ語学・ドイツ文学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員







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