三省堂国語辞典のすすめ

その17 ウルトラマン、退場す。

筆者:
2008年5月28日

東京・世田谷の祖師谷(そしがや)に、「ウルトラマン商店街」という名の商店街があります。近くの砧(きぬた)にある撮影所が、ウルトラマンの誕生の地だからだそうです。入り口広場にはウルトラマンの像が立ち、アーケードには両手を広げたウルトラマンが飛んでいます。

【ウルトラマン商店街で】
【ウルトラマン商店街で】

「ウルトラマン」は、1960年代の後半に放送が始まって以来、いくつものシリーズが作られました。私を含めて、多くの子どもたちが熱狂しました。この商店街も、「ウルトラマン」の名を冠したことで、きっとお客が増えたでしょう。

じつは、『三省堂国語辞典』でも、第四版(1992年)から第五版(2001年)まで、「ウルトラマン」という項目を載せていました。放送開始から30年近く経って、キャラクターが広い層に親しまれ、また、比喩としてもよく使われるようになっていました。

【「ウルトラマン」(第四版より)】
【「ウルトラマン」(第四版より)】

たとえば、1990年に、かのピンク・レディーが2か月だけ再結成することになった時、新聞に、歌手自身のこんなコメントが出ました。

〈MIEは「地球からの要望で宇宙から帰ってきたウルトラマンのような気持ち。うれしい」と語り、〉(『読売新聞』夕刊 1990.9.18 p.11)

このコメントを理解するためには、たしかに、「ウルトラマン」について解説してある辞書があれば、役に立ちます。

とはいえ、同様の事情は、「鉄腕アトム」や「ゴジラ」「月光仮面」「ドラえもん」「おしん」などにも当てはまります。いずれもよく知られ、比喩などにも使われるキャラクターです。「ウルトラマン」が辞書に載るなら、彼らも載っていいはずです。でも、それでは際限がなくなってしまうことも事実です。

今回の第六版では、議論の結果、「ウルトラマン」には退場を願うことになりました。第四・五版での活躍には感謝しつつも、やはり、『三国』には彼はふさわしくないと思います(前後して、別の大きな辞書に「ウルトラマン」が採用されたのは偶然でした)。

もっとも、第六版にも、キャラクターの名前に由来する項目が新しく入っています。「マスオさん」「耳をダンボにする」がそうです。これらは、もはや固有名詞の用法を離れて、一般のことばとして定着したと考えられるからです。

【耳をダンボにする】
【耳をダンボにする】

筆者プロフィール

飯間 浩明 ( いいま・ひろあき)

早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。

URL:ことばをめぐるひとりごと(//www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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編集部から

生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され(※現在は第七版が発売中)、各方面のメディアで取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。