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地域語の経済と社会 第2回

2008年 6月 21日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第2回 富山方言の一期一会・一語一円

【100円の富山方言番付】
【100円の富山方言番付】
(↑写真をクリックすると拡大します)

 打ち合わせ会のために富山に行きました。帰るまでの数時間の余裕を「研究」にあてることにしました。街を歩き回って方言みやげ・方言グッズをあさり、交通標語などに方言が使われていないかを探し、観光パンフレットなどに方言が使われているかを確かめるのです。はたからみると、暇な観光客が資料を集めて写真を撮っているとしか、見えないでしょう。どうも崇高な学問とは見えないようです。

 富山では、かけた時間の割に収穫がありました。これまで何度か来たことがありますが、以前はこれほど多くありませんでした。観光標語の「パノラマキトキト富山に来られ」はパンフレットなどあちこちで使われています。「キトキト」は魚などのいきいきした感じをいいます。「こられ」(きなさい)は敬語の「られる」を使った命令形で、時代劇で出そうな言い方ですが、富山ではよく使われます。スーパーのレジ袋節約のパンフレットでも「レジ袋いらんちゃ」のように「ちゃ」が使われていました。共通語の「よ」にあたることばです。いずれも地元では有名な、富山特有の言い方です。

 圧巻は富山方言の番付表です。いくつかの目安で全国一になりそうです。駅前の観光案内所のボックスの窓に貼ってあるので、聞いたら、駅の中の売店で売っていると教えてくれました。100円。その後あちこちで見つけました。有料の方言みやげは色々ありますが、単価100円は安いです。それに、載っている単語の数が多くて、400語以上。ということは1語あたりの単価は25銭程度です。

 実は外国語の辞書の値段と載っている単語の数を比べると、「一語一円」が目安になります。英語・フランス語・ドイツ語などの辞書は一語一円以下です。しかしタイ語・ぺルシャ語などの学習者の少ない言語だと、語数が少なくても辞典の値段が高いので、一語一円以上につきます。富山方言は、有力な外国語なみの経済性があるわけです。

 もっとも現地に行かずに方言番付表を入手しようと思ったら、郵送料がかかります。折り目のつかない形で送ってもらおうと考えたら、1語1円以上につくでしょう。気づいたら、思い切って手に入れるに限ります。茶道でいう一期一会(いちごいちえ)は、人間についてですが、方言みやげでも一期一会の心構えが必要です。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。
著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『デジタル社会の日本語作法』(岩波書店)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)などがある。 

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2008年 6月 21日