地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第4回 山下暁美さん:方言をしゃべるキティちゃん

筆者:
2008年7月5日
【名古屋キティキーホルダー】

【写真1 名古屋キティキーホルダー】



【博多キティキーホルダー】

【写真2 博多キティキーホルダー】

名古屋弁と博多弁をしゃべるキティちゃん(写真1 名古屋キティキーホルダー/写真2 博多キティキーホルダー)は、キヨスクで見つけて2個ずつ買いました。「背中のボタンを押すと1万回しゃべります」と書いてあるから、1回、1回、大切に聞いています。のれん、ハンドタオルなど、ほかのキティちゃんグッズ(参考:写真3 名古屋キティTシャツ)は読む方言ですが、これは音声をとおして方言が楽しめます。

(↓写真をクリックすると拡大)

【名古屋キティTシャツ】

【写真3 名古屋キティTシャツ】

2002年に発売された名古屋弁のキティちゃんは、名古屋特産の鶏・コーチンの黒いハッピを着て、「そーだがね」(以下、製品の台紙の表記どおり)、「でぇ~らりゃ~すき」(実際は「でぇ~りゃ~すき」と聞こえます)、「えびふりゃぁ食べてみぃ~や~」「言っとらんてぇ」「またきてちょ~お」の5つのことばをネコに似た高い声でしゃべります。

4つの意味は見当がつきますが、理解に苦しむのは、「えびふりゃぁ」でしょう。「えびふりゃぁ」とは“えびフライ”のことです。キティちゃんが方言でしゃべると食べてみたくなります。隣接する三重県では高級伊勢えびフライが有名ですが、名古屋では、えびフライ、えびせん、天むす、えびフライサンドなどに形を変えて名物になっています。ことばの伝播にも似た現象で興味深いです。名古屋の味噌煮込みのうどんのパッケージに登場したキティちゃんは、「どえりゃーうみゃー」と吹き出しがついています。名古屋では何でも食べ物は「うみゃー」なのです!

名古屋弁から数カ月遅れて発売された博多弁をしゃべるキティちゃんは、博多祇園山笠の山笠七流れをイメージした、紺のハッピを着ていて、ねじりはち巻き姿です。山笠を引くためか、縄を手にした威勢のよいキティちゃんで、「ど~したと?(どうしたの?)」(博多弁は訳付き)、「きつかー!(きつい!)」「こっちきーよ(こちらにおいで)」「なんいよ~と?(何言ってるの?)」としゃべります。

大阪弁のキティちゃんは、残念ながら手に入らなかったのですが、大阪食いだおれ人形にちなんだかっこうで、「ええんちゃうのん?」「すっきゃねん」「めっちゃかわいい」「ごっつええ感じ」「あかんねん」の5つのことばをしゃべります。そういえば、大阪キティ物語ハンドタオルにも「めっちゃ!かわいい」と書かれています。関西では「超(とても)」の意味で、「めっちゃ!」や「めっさ!」が使われます。

言語経済力を反映して、年齢不詳のキティちゃんが最初にしゃべったのは、2000年。大阪弁で、すぐに完売したとのことです。キティちゃんは、大阪弁、名古屋弁、博多弁のほかに、津軽弁、共通語もしゃべるそうで、方言の特徴を出しやすい地域に限定されています。今もどこかで「きつかー!」などと叫んでいることでしょう。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』
『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。