『三省堂国語辞典』のすすめ その23
2008年 7月 9日 水曜日 筆者: 飯間 浩明前代未聞の大成功? 不祥事?

【どうして誤りなのか?】
テレビで、ことばに関するクイズ番組を興味深く見ることがあります。勉強になったり、ど忘れしていたことを思い出させてもらったりすることもありますが、ときには、根拠の不明な「正解」を示されて驚くこともあります。
以前、ある番組で、「前代未聞」ということばについて、〈今回の選挙では前代未聞の大成功をおさめた〉という使い方は間違いだと解説していました。なぜなら、〈「前代未聞の不祥事」というように、悪いことが起きたときに使うのがふつう〉だからというのです。これはおかしな説です。
「日本語の誤り」をあげつらった本でも、「前代未聞の快挙」を不適切とするものがあります。「前代未聞」は〈これまでに聞いたことがないようなあきれたこと〉だとしています。これはもしかすると、『新明解国語辞典』の〈今まで聞いたことが無いような△変わった(あきれた)こと。〉という説明を不完全に理解した結果かもしれません。『新明国』では、「変わったこと、または、あきれたこと」と並記しているにすぎないのですが。
大きな辞書をちょっとでも調べれば、「前代未聞」がいいことに使われた例が明治以前からあることは明白です。また、『新明解四字熟語辞典』にも、谷崎潤一郎「少将滋幹の母」(1949-1950)の例が引いてあります。原文に当たってみると、次のように出ています。
〈時平が此(こ)の大納言の所へ年頭の礼を述べに来るなどと云うことは、嘗(かつ)て前例がないばかりでなく、前代未聞の事件と云っても差支えない。〉(『谷崎潤一郎全集 第十六巻』中央公論社 1982 p.186。字体・仮名遣い改める)
引用部分の前には、大納言が、左大臣時平の異例の訪問について驚喜したと書いてあります。大納言にとってめでたいことを、「前代未聞」と表現しています。

【大事故も快挙もOK】
現代の例はどうかというと、なるほど、「前代未聞の犯罪」などの例もありますが、一方で、「無名の新人の抜擢(ばってき)」「超大作の映画」「首相のワイドショー出演」などについて「前代未聞」を使う例もあります。いいことか、悪いことかは関係ありません。
『三省堂国語辞典 第六版』は、は、この点をはっきりさせるべきだと考えました。「前代未聞」の用例として、「前代未聞の大事故」「前代未聞の快挙」の2つをあえて入れ、不祥事にも、また、快事にも使えることを示してあります。
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筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。









































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