三省堂国語辞典のすすめ

その29 グアバ、どんな甘さだ。

筆者:
2008年8月20日
【グアバの果実】
【グアバの果実】

お店に並ぶ果物に新顔が増えてきました。マンゴーやアボカドなどは、ちょっと前はそうそう手に入りませんでしたが、今ではリンゴやバナナの横に対等に並んでいます。

グアバという果物の名前も、最近よく目にします。もっとも、一般には、生で食べるよりもジュースとして飲む機会のほうがずっと多いでしょう。私の飲んだグアバジュースは、ピンク色の液体で、独特の香りがあって、甘みの強いものでした。

【ジュースでおなじみだが…】
【ジュースでおなじみだが…】

『三省堂国語辞典』では、今回の第六版で「グアバ」を載せることにしました。語釈を書くにあたっては、まず最初の手続きとして、果実に関する事典を開いてみました。すると、〈フトモモ科……熱帯アメリカ原産で……〉と、何行にもわたって詳しい説明が続いています。においや味については〈特有の芳香があり、甘く……〉と書いてあります。

実を言うと、私はグアバの実物を知りませんでした。ですから、事典の記述は参考になりました。でも、いまひとつ、グアバの鮮明なイメージが浮かびません。専門の事典というものは、取り上げるものに関するあらゆることを記述しようとするため、そのものの特徴がかえって不鮮明になるきらいがあります。一方、『三国』は、「それは要するにどういうものか」を一言で説明する辞書ですから、専門の事典の丸写しではすまされません。

この際、本物のグアバを手に入れたいと思いました。ところが、近所のいくつかのスーパーを回っても、そんなものは置いていません。案外、身近な果物ではないようです。インターネット通販で取り寄せては、と考えましたが、まとまった量を注文しなければならず、金額がばかになりません。ほうぼう探し回った末に、銀座の沖縄県産品の店で、やっと数個のグアバを買い求めることができました。

入手したグアバを観察し、よく味わってみたりして、以下の語釈が完成しました。

〈熱帯アメリカ原産の、小ぶりの丸い くだもの。皮はうす緑色で、果肉はピンク色。強くあまい かおりがあるが、味はうすい。〉

そう、味は薄いのです。市販のグアバジュースから想像されるほど、甘みは強くありません。これについては、ウェブサイトでグアバを食べた人たちの感想文を調べても出てくることなので、衆目の一致するところでしょう。『三国』の説明は、こういう点で専門の事典よりも実感的だと、自信を持っています。

【実感を重視した記述】
【実感を重視した記述】

筆者プロフィール

飯間 浩明 ( いいま・ひろあき)

早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。

URL:ことばをめぐるひとりごと(//www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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編集部から

生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され(※現在は第七版が発売中)、各方面のメディアで取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。