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地域語の経済と社会 第12回

2008年 8月 30日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第12回 外国の方言みやげ

(↓それぞれクリックすると拡大します)
【ドイツ・ケルンの方言みやげ】
【ドイツ・ケルンの方言みやげ】
【「なるようになる」と書かれた傘】
【「なるようになる」と書かれた傘】
【標準ドイツ語と英語の訳】
【標準ドイツ語と英語の訳】

 方言を生かしたみやげものは、海外にもあります。海外旅行のついでにみやげもの店など丹念に回ると見つかります。

 ドイツに行ったときにケルンに寄りました。駅のすぐ横が壮大なケルン大聖堂ですが、そこからすぐの観光案内所のショー・ウインドーを数人が見ながら笑い合っています。見ると商品がたくさん飾ってあって、ドイツ語らしい文が書いてあります。意味が分からないので聞いてみたら、ケルンの方言だと言って、英語になおしてくれました。「なるようになる」という意味のようです。昔の歌を思い出して、「ケセラセラ、なるようになる」と口ずさんで、その意味かと尋ねたら、相手も同じ年代、そのとおりの意味だと言って、一緒に合唱しそうな勢いです。

 彼らが買わずに帰ったあと、じっくり見たら、ショー・ウインドーのかたわらにちゃんと標準ドイツ語と英語の訳が書いてありました。写真を撮り、傘やバッグだからかさばるという理由をつけて、買うのをやめました。売り上げには貢献しなかったわけです。2004年のことです。1990年にはなかったので、ドイツでは方言みやげが人気を呼ぶようになったのでしょうか。

 英語の方言みやげも、いろいろあります。1990年ころのイギリスだと、北部・中部の都市で見つかりました。2008年にヨークに行ったときには、みやげもの屋で聞きましたが、見つかりませんでした。2000年ころのアメリカ南部では、南部なまりについての観光客向けの本が空港などで売られていました。オーストラリアではオージー英語の本や絵はがきや筆立てなど、様々なものが売られています。南太平洋の英語を使う島々でも売っていることがあります。

 どれが方言を使ったみやげなのかは、その言語を知らないと分かりません。店員に聞くのがいいでしょう。イギリスの店員は熱心に探してくれたので、最初は感激していましたが、あとで売り上げを増やすためなら当然だと、人に言われて、感激しないことにしました。感謝はしますが。

【『変わる方言 動く標準語』】 イタリアでは現地生活の長い人が方言カレンダーを探しあてて送ってくれました。しかしこれまで世界50カ国ほどを訪れましたが、方言みやげの見つかった国は、欧米の数カ国にすぎません。アジアでは気づきませんでした(でも見逃しもあるでしょう。教えていただけたら幸いです)。方言についての国民の意識が違うのでしょう。また観光客の関心にも差がありそうです。文字で細かい発音を表せるかという違いもあります。方言が言語経済学的に価値を持つかどうかは、簡単には定まらないようです。

 なお外国の方言みやげについては、以下の本にも載っています。
 井上史雄『変わる方言 動く標準語』(2007、ちくま新書No.642)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。
著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『デジタル社会の日本語作法』(岩波書店)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)などがある。 

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2008年 8月 30日