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地域語の経済と社会 第19回

2008年 10月 18日 土曜日 筆者: 山下 暁美

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第19回「お隣の国、韓国の方言事情」

 お隣の国、韓国(大韓民国)の方言の状況を見てみましょう。釜山(プサン)で慶尚道方言(釜山の方言は、慶州、釜山、大邱を含む地域で慶尚道方言)のグッズはないかと聞いてみましたが、昔とちがって、今日では商品として売られているのは見かけないとのことでした。

【市場入り口の看板】
【写真1 市場入り口の看板】
【全部食わんかもっと食わんか】
【写真2 「全部食わんか もっと食わんか」】
【食べてみたか田舎のとり】
【写真3 「食べてみたか 田舎のとり」】

 グッズをあきらめて、釜山の町の中の看板に注目すると方言がありました。市場の周辺に限られています。写真1は市場の入り口に立てられている看板です。東京弁をソウル弁とすると、慶尚道弁はさしあたって関西弁でしょうか。“오이소 보이소 사이소”(オイソ・ボイソ・サイソ)は、「来てや! 見てや! 買ってや!」くらいに受け止めてもいいかもしれません。英訳は見てのとおり、“Come! See! Buy!”です。

 次の例“다묵꼬 또묵꼬”(ダムッコ トムッコ)(写真2)は「全部食べて また食べて」という意味で、これも韻をふんでいます。共通語では“다먹고 또먹고”(ダモッゴ トモッゴ)となるそうです。日本語の方言に直すと、「全部食わんか もっと食わんか」とでも言えるでしょうか。大阪の食い倒れといい勝負になりそうです。

 にわとりの写真3は、“무봤나 촌돩”(ムバンナ チョンダック)「食べてみたか 田舎のとり」という意味で、共通語では、“무봤나”(ムバンナ)が、“먹어봤나”(モゴバンナ)となります。放し飼いをイメージする田舎のとりにふさわしい表現を用いようとした意図が見られます。

 このように方言は、地方色を強調することによって、商品に特別な付加価値を生み出すことに貢献していると言えましょう。

【韓国の石蹴り】
【写真4 韓国の石蹴り】

 写真4は韓国の石蹴りです。線の引き方や、遊び方も日本とよく似ています。釜山方言では“땅따먹기”(タンタモッキ)「地面をもうける」と呼んだそうですが、今では、“사방치기”(サバンチギ)「四方を打つ」と呼びます。

 韓国の方言区画は、南から大きく済州道・慶尚道・全羅道・忠清道・江原道・京畿道の6つの地域に分けられますが、行政区域に沿っています。韓国の方言は、政治的な揶揄、地域的差別の道具になった経緯があって、今日では、例えば、慶尚道方言は東南方言、全羅道方言は西南方言と呼ばれるようになりました。学問の世界でも、新しい呼び方を採用しています。

 済州島には、現在、景観言語としても方言が最も使用されている地域で、方言グッズがあるそうです。興味のある方は、韓国旅行のおりに済州島みやげに目を留めてみてはいかがでしょう。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』山下暁美(やました・あけみ)
明海大学外国語学部・大学院応用言語学研究科教授。博士(学術)。
専門は、日本語教育学・社会言語学。研究テーマは、移民百年を迎えた、ブラジル、アメリカ合衆国などにおける日本語の変化、外国人の日本定住化による共生時代の日本語教育政策。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2008年 10月 18日