地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第20回 大橋敦夫さん:方言によることばあそび

筆者:
2008年10月25日

日本語では、他の言語に比べて音の種類が少ないので、同音異義語が多くなりがちです。この性質を積極的に利用したのが、和歌の世界の懸詞・縁語ということになります。が、そこまで高尚にならずとも、私たちは、日常会話でも十分にこの性質を利用して、駄洒落や語呂あわせなどの「ことばあそび」を楽しんでいますね。

方言を題材にしたものでは、島田陽子さんの手になる大阪弁をモチーフにした作品のあのフレーズがあまりにも有名ですね。

 ちゃうちゃうちゃう?〔=(中国原産の犬の)チャウチャウではないかしら?〕
 ちゃうちゃうちゃう!〔=チャウチャウではないですよ。〕

当地・信州にも、割とよく知られた次のような言い回しがあります。

 せったせったせうけど   〔=言った言ったと言うけれど〕
 せったせばせわねせうし  〔=言ったと言えば、言わないと言うし〕
 せわねせばせったせうし  〔=言わないと言えば、言ったと言うし〕
 せったかせわねかせってみろ〔=言ったか言わないか、言ってみなさい〕

「せう」は、「言う」の意味で、早口言葉のように一気に唱えてみると、その場が結構盛り上がります。

さて、そこで写真の商品にご注目ください。

【おじょこな おこじょ】

【おじょこな おこじょ】

1998年冬季オリンピックが長野で開催された際に、マスコットとなったオコジョ(イタチ科の小動物)を型どった洋菓子です。オコジョにかけた「おじょこ」は、信州の方言で、「おませな」を意味します。

口に含むと「おじょこ」になるかは、わかりませんが、コーヒーや紅茶にあうスイーツです。

こうした楽しいネーミングの商品は、今後もたくさん「発掘」できそうです。読者の皆様からのご教示も、お待ちしております。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。