地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第26回 田中宣廣さん:方言キャラクター

筆者:
2008年12月6日

最近は,ご当地キャラクターが流行っています。全国的に話題になった例もありますね。

さて,そういうご当地キャラクターに,その土地の方言で名前を付けた,つまり,「方言ネーミング」をしたものが,いくつかあります。これを,「方言キャラクター」と呼びます。今回は,「方言キャラクター」について少しお話します。

まず,第21回で紹介しました,NHK盛岡放送局の「がんすけどん」と「なはんちゃん」も,「方言キャラクター」です。思い出してください。

東北地方にはまた,ご当地ヒーローの方言キャラクターがたくさんいます。

青森県「跳神ラッセイバー」(写真1),岩手県「岩鉄拳チャグマオー」(写真2),秋田県「超神ネイガー」(写真3)が,その代表です。

【跳神ラッセイバー】
【写真1 跳神ラッセイバー】
【岩鉄拳チャグマオー】
【写真2 岩鉄拳チャグマオー】
【超神ネイガー】
【写真3 超神ネイガー】

いずれもその県の有名な催しに関連する方言を使っています。

青森県の「ラッセイバー」は「ラッセイ」の部分が方言です。『ねぶた祭り』の掛け声「ラッセーラー」(出せ出せ)からとっています。

岩手県の「チャグマオー」は,「チャグ」の部分が方言です。『ちゃぐちゃぐ馬っこ』の「ちゃぐ」からとっています。「ちゃぐ」は,この催しのとき馬に着ける鈴の音のオノマトペ(擬音語)です。催し場所の滝沢村や盛岡市の方言での正確な発音は「ツャング」です。擬音語にも地域性つまり方言による違いがありますので,「チャグマオー」も方言キャラクターの例になります。「岩鉄拳」は「いわてっけん」と読み,「岩手県」と掛けています。

秋田県の「ネイガー」は,『なまはげ』のせりふ「泣ぐ子はいねがー。悪り子はいねがー」のおしまいの「ねがー」からとっています。

これらには,関係キャラクターがたくさんいます。そのほとんどが方言キャラクターです。

例えば,「ネイガー」には,超神(ネイガーの味方),邪神(敵),だじゃく組合(怠け者)がいます。「だじゃく組合」には、いかにも「だじゃく」らしい方言キャラクターが揃っています。いくつか紹介します。「キャラクター名」のあとの( )に共通語の意味を添えて示します。「ハンカクサイ」(愚か,バカ),「ゴンボホリー」(だだをこねる),「エラシクネ」(かわいげがない),「セヤミコキ」(仕事に手抜きをする人),「メグセクネイガー」(不美人でないか),「カマドキャシ」(破産した人)など,その他たくさんいます。詳しくは,『超神ネイガーオフィシャルサイト』で説明しています。また,ABS秋田放送の番組『秋田観光地大決戦!』で放送しています。番組ウェブサイト内でも各キャラクターの性質や相互関係も説明しています。

皆さんの地方にも「方言キャラクター」がいましたら,どんどん,私たちに教えてください。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。