『三省堂国語辞典』のすすめ その45
2008年 12月 10日 水曜日 筆者: 飯間 浩明もう、テレックスの時代じゃないけれど…。

【テレックスの紙テープ】
情報機器に関することばは、辞書に載せた当初は、新鮮であり、その辞書の目玉商品となります。でも、次の版が出るころには、もはや時代遅れになっていることもしばしばで、辞書の編集に際して、悩みの種になります。
『三省堂国語辞典』の通信機器に関する項目のうち、「テレックス」は、長い命を保っているもののひとつです。第二版(1974年)で採用され、その後の版でも存続しています。テレックスというのは、電話回線を利用するタイプライター式の通信(機)です。商社やマスコミなどで、海外との通信手段として長く使われました。

【『朝日新聞』2004.6.4より】
ところが、ファクスや電子メールの普及に伴って、テレックスは次第に使われなくなりました。2003年に国内テレックスが、2005年に国際テレックスが終了しました。ちょうど、最新版の第六版(2008年)の編集中の出来事でした。こうなると、「テレックス」を引き続き『三国』に載せていいかどうか、検討が必要です。
時代遅れの感じがすることばとはいえ、削ってしまうのは問題があります。何しろ、長く主流だった通信手段なので、ここ何十年かに発表された文章には「テレックス」が多く登場します。たとえば、利用がピークを迎えた1984年の小説には次のようにあります。
〈送って欲しいものや、急用などがあれば、〔夫は〕会社のテレックスを使って伝言してくる。〉(高樹のぶ子「揺れる髪」『光抱く友よ』新潮文庫 p.101)
こういう文章を読む人のためには、「テレックス」の項目はあったほうが親切です。

【〔古風〕200項目余を新設】
今は使われないことを示すため、注釈をつけることも考えられます。語感が古いことばについては、今回の第六版から〔古風〕という表示をつけています。でも、「テレックス」は語感が古いというわけではないので、この表示はふさわしくありません。また、使用年代を示す方法も考えられますが、そうすると、「キセル」「蓄音機」など、過去の一時期に使われたものにはすべて年代を付さなければならなず、際限がありません。
結局、「テレックス」は、無条件で存続することになりました。この項目の直前には「テレタイプ」もありますが、これも残りました。「テレタイプ」は『三国』の前身の『明解国語辞典 改訂版』(1952年)以来の項目です。次の第七版でも、これらを存続させるかどうかについては、またしても頭を悩ませることになるでしょう。
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筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。







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