地域語の経済と社会 第28回
2008年 12月 20日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第28回 方言でひと言添えて…「のし袋」
ことしも残り少なくなり、これからは、クリスマス、新年、バレンタインデー、そしてやがて卒業、就職、進学・入学と、いろいろなプレゼントやお祝いを贈る季節が続きます。
宮崎市の文具店で、方言でメッセージを書いた「のし袋」がたくさん並んでいるのを見つけました。その数、9種類。袋の色は白が中心ですが、薄いピンク、薄いブルーのもあります。サイズは、紙幣を折らずに入れられる大きさです。【写真1、2】参照。
具体的には、次のようなメッセージが書いてあり、「つかってみてん宮崎弁」という9つの表現〔とその共通語訳〕の一覧も付いています。

【写真1 宮崎市の文具店で】

【写真2 方言でメッセージが…】
① お祝いやじ~
② おばあちゃんからのお祝いやけんね
③ 可愛いい子がでけたね
④ がんばんないよ
⑤ 楽しんできないよ
⑥ おこづかいやけんね
⑦ すこしやっちゃけんね
⑧ 好きなつ買いない
⑨ はよようなってね
内訳を見ると、①②は文字通り「お祝い」用で、③は「出産祝い」、④は「就職・進学祝い」などに、⑤は旅行に行く人への「餞別」でしょうか。⑥⑦⑧は「小遣い」などに、そして⑨は「病気見舞い」でしょう。なお、⑦は「寸志」としても使えそうです。
①~⑧には右上に小さなのしが付いていますが、⑨にはありません。お見舞いには「のし」は付けないのがふつうですから……。
②だけに「おばあちゃんからの…」と贈り主が出てきますが、プレゼントの“主役”になるのは、おばあちゃんが多いということでしょうか?
以上、いずれも贈り手の気持ちが方言で書かれており、“遊び心をもった方言グッズ”ということができるでしょう。贈るほうももらったほうも、共通語での場合に比べていっそう思いが身近に感じられ、いわば“肉声が聞こえる”やりとりができそうです。
どれも「祝儀」に属するケースばかりで、「不祝儀」用はありません。「不祝儀」はやはり改まってきちんと伝える必要があり、“遊び心”の入る余地はないからでしょう。
こののし袋を作っているのは、どこなんだろうと思って店の人に聞くと、何と四国は愛媛県の紙製品製造販売会社だとのこと。電話して社長に話を聞きました。
そもそもこういう“メッセージ付きのし袋”は共通語で書かれたものがあり、販売店を通じてお客さんからときおり地元の方言で書いたのし袋を作ってほしいという依頼があり、一つひとつ手書きで対応していた由。そういう経験をもとに2007年から各県域版をまとめて作ることにし、メッセージは全部手書きにして、現在、宮崎県版(9種)の他に鹿児島県版(12種)があり、今後さらに他の県版も増やしていきたいとのことでした。
3色の使い分けは、白が基本で、女の子用には薄いピンク、男の子用には薄いブルーもあり、メッセージとして書く「方言」は取引先の販売店などから情報を得て決めている由。
販売店やお客さんからの反応は好評で、おもしろグッズとして好意的に受け止められているという話でした。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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2008年 12月 20日







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