『三省堂国語辞典』のすすめ その47
2008年 12月 24日 水曜日 筆者: 飯間 浩明敵失って、野球だけじゃないよ。

【敵失で一点】
さる席で、新聞社の方が、「『三省堂国語辞典 第六版』の『敵失』の項目が新しくなっていますね」とほめてくださいました。「ほかの辞書では、野球のエラーのことしか書いてありませんが、『三国』では、それに加えて、政治の場での用例が載っていますね」
鋭い観察眼に敬服します。たしかにそのとおりです。『三国』の「敵失」は、旧版まではほかの辞書の説明とよく似ていましたが、第六版では説明と用例とを修正しました。
〈敵・(相手チーム)の失策。「―で一点・野党にとって かっこうの―」〉

【敵失で、選挙は大勝】
最後の「野党にとって かっこうの敵失」が、政治の場での用例です。新聞の政治記事では「敵失」を使う機会が多いため、『三国』の語釈もご覧いただいたのでしょう。
もっとも、この話が出た席で、私は、「敵失」の修正の経緯についてはうろ覚えで、はっきりしたご説明ができませんでした。せっかく評価していただいたのに、だらしないことおびただしいと言うべきです。
家に帰ってから、改めて確認してみました。政治の場で使う「敵失」の用例は、2007年の参議院選挙の後に拾っていました。当時のアンケート記事で、野党が大勝した原因について〈「勝因は敵失」8割〉(『毎日新聞』2007.8.6 p.3)という見出しが躍っていました。
ただ、「勝因は敵失」という用例を辞書に載せても、政治の世界で使われる例だということが読み手には伝わりません。そこで、改めて「反対党の敵失」という例文を自分で作ってみました。最初の原稿には、この文を使いました。
ところが、よくよく考えると、「反対党の敵失」は日本語として不自然です。反対党というのは敵のことですから、「敵の敵失」となって、ことばが重なっています。

【最近やたら目につく】
結局、用例は実例に基づくのが一番だと考え直しました。手元の資料から、〈同党にとって本来なら格好の「敵失」のはずだが〉(『朝日新聞』1994.5.7 p.3)という文を選び出し、これをベースに、「野党にとって かっこうの敵失」という用例を作りました。これが決定稿となりました。
辞書の用例は、ことばの説明の後にアクセサリーのように添えるものだと思う人もいるかもしれません。でも、ことばの使用場面などを示す大事なものです。分かりやすく適切な用例を選ぶまでには、けっこう思い悩むものです。
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◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」
筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。







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