2009年 1月 のアーカイブ
地域語の経済と社会 第33回
2009年 1月 31日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第33回 「方言かるた」あれこれ
かつて、子供たちの冬場の遊びといえば、外では凧揚げやコマ回し、羽根突きやマリつき、室内では剣玉、お手玉、綾とり、福笑い、すごろくなどが代表的なものだったでしょうか。しかし近年は、テレビゲームや電子ゲームなどが登場し、音声付き、映像付きで、画面が多様に変化して子供たちの興味を強く引き付け、それに主役の座を奪われてしまったようで、かつての伝統的な子供の遊びは影が薄くなったように思われます。
ところが、そんな中にあって、最近、「かるた」に注目が集まっているとのこと。しかも全国各地で、地元の素材や話題を織り込んだ「郷土かるた」「ふるさとかるた」と呼ばれるものが続々と作られているといいます。
「日本郷土かるた研究会」(会長・山口幸男、群馬大学教育学部教授〔社会科教育〕)のホームページによると、全国で500もの「郷土かるた」があると書かれていますが、その後の調査によると、わかっただけでも何と1500にも上っているということです。
その中には、地元の「方言」を活かした「方言かるた」もあります。【写真1】
いま私の手元にあるものだけでも、北から南に…『北海道方言かるた』(北海道)、『津軽弁かるた』(青森県)、『仙台弁かるた』(宮城県)、『とちぎご当地方言かるた』(栃木県)、『心のふるさと新潟弁かるた』(新潟県)、『甲州弁かるた』(山梨県)、『方言歌留多 名古屋言葉合せ』(愛知県)、『石川さんの金沢弁かるた』(石川県)、『京ことばかるた』(京都府)、『播州弁かるた』(兵庫県)、『土佐弁かるた』(1)(2)(高知県)、『博多弁かるた』(福岡県)、『八女市方言かるた』(福岡県)、『諸県方言かるた』(宮崎県)、などがあります。
インターネットで「方言かるた」というキーワードで検索すると、『おらほの言葉盛岡弁カルタ』(岩手県)、『稲城方言カルタ』(東京都)、『浅羽の方言かるた』(静岡県)、『備後弁かるた』(岡山県)、『出雲弁だんだんかるた』(島根県)、『熊本弁かるた』(熊本県)、『与論の方言かるた』(鹿児島県)、等々、さらにたくさんの「方言かるた」がヒットし、全国各地で作られていることがわかります。
祖父母・両親・子供の3世代でいっしょにかるた取りをすると、札の中にわからないことばがあった場合には、子供が両親やおじいちゃん・おばあちゃんに「これ、どういう意味?」と聞くことも可能で、いわば文字どおり“遊びながら”方言や地元の事柄について学ぶこともできるわけで、おのずと異世代間の交流も進み、一石何鳥もの効果が期待できるというわけです。
近年、その教育的な効果が、再認識・再評価されているようです。
最近では、読み札を土地のお年寄りや地元出身のタレント、アナウンサーなどが読んでCDにしたものも出てきました。CDプレーヤーでランダム再生にすれば、少人数のときにも楽しく遊べます。少子化の時代ですから、かるたを取ろうにも、もし子供たちが3人しかいなかった場合、1人が読み手に回ると、取れるのは2人だけになってしまいます。が、CDが読みあげてくれれば3人全員で楽しく遊べます。なるほど、時代に合った方式といえそうです。【写真2】
ただ、先の山口幸男教授によると、「郷土かるた」は作るところまでは多くの地域が努力するが、その後の普及、活用、定着が最も大きな課題になっているとのことです。
その点、こういったかるたの元祖ともいうべき『上毛かるた』(群馬県、昭和22年)は、地区大会、郡市大会、そして県大会と、非常にしっかりしたシステムができ上がっており、さすがは長い伝統を誇るだけに蓄積と重みがあります。
【参考】
「日本郷土かるた研究会」 http://www14.plala.or.jp/hpmsmiki/ のホームページには「かるたの歴史」や、「都道府県別の郷土かるたランキング」その他の情報が掲載されています。
「郷土かるた館」http://homepage2.nifty.com/taki-forest/karuta/karuta.html のホームページは、全国の都道府県別の「郷土かるた」が検索できるようになっています。
また、CD付きかるたを多数制作している会社のホームページ「オシャベリカルタ」http://www.かるた.jp/about_oshaberikaruta.php には、各地のCD付きの方言かるたが紹介されています。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
「辞書引き学習」の立命館小訪問記2
2009年 1月 30日 金曜日 筆者: ogm三省堂の辞書編集部で、立命館小学校へ授業見学にうかがいました。そのいきさつは前回をご覧ください。
先週の続き⇒さて、気になる授業の様子ですが……
教室は、窓際に机が並ぶ通常の教室スペース、その手前、廊下との間に同じくらいのオープンスペースがあります。オープンスペースは各クラスの間も可動式のしきりになっていて、教室空間そのものもゆったり。
机の上には……2冊の辞書が置かれていました。漢字辞典と国語辞典。まず1年生の教室からうかがったのですが、入学から半年ほどのものが、前回の冒頭の写真にある辞典です。もうたくさんの色とりどりのふせんが付いています。


どのクラスでも、机の上に辞書が置かれています。別の授業で児童がいない教室も、机の上に辞書が置いたままであったり。「国語の授業に力を入れている学校なんだなぁ」と受け取られたでしょうか。もちろん、国語に力を入れていることには変わりはありませんが、辞書引き学習は「国語」だけでおこなわれているのではありません。教室でおこなわれる全ての授業が、辞書を手元に置いての授業なのです。
そして、今年から立命館小学校で試みられているのが、百科項目も入っている辞典での実践です。項目数23万8000*の『大辞林』も使われているとのこと、その様子ものぞいてきました。

ちょうどそのとき、先生が「『錦』のついたことばはほかにどんなことばがある?」と投げかけると、あちこちで「ハイ!」「ハイ!」「ハイ!」と手が挙がり、
「○○辞典には……とあります」
「□□には……って書いてあります」
と元気な声が。もちろん大人向けの辞書なので、読めない字もある。そこは先生がフォローして、とにかく辞書によって得られることをみんな精いっぱい受け止めている。クラスのほかの子が持っている辞書と比べてみて、辞書の内容がそれぞれ違うこと、そのおもしろさにも気づいている。もうすっかり辞書と友達になっていて、何かあったら友達に聞くのと同じように、辞書にも聞いているよう。

好奇心旺盛、興味がいろんなところに向くその時期に、辞書が近くにあることは大切なことだと、今さらながら、辞書の編集に携わっている者ながら、しみじみと感じ入りました。
* * *
【編集部から】
辞書引き学習法について、深谷先生にインタビューをさせていただきました。
このウェブサイトにて、掲載いたします。乞うご期待!
前編を掲載いたしました。以下をご覧ください。
⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生
「辞書引き学習」基本のステップは五つ! 今すぐ始めたい方はこちらをご覧ください。
⇒「辞書引き学習」とは(監修:深谷圭助)
「やってみよう!」 「辞書引き学習」への取り組み―先生方・保護者の方へ―
★深谷先生から推薦をいただいております
例解小学国語辞典 第四版
編者:田近洵一
B6判 1,216ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13821-3
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13822-0
例解小学漢字辞典 第三版 新装版
編者:林 四郎(主幹)・大村はま
B6判 1,152ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13817-6
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13818-3
★立命館小学校で使われています
クラウン学習国語百科辞典
監修:金田一春彦 編者:三省堂編修所
A5判 1,200ページ 3,990(本体3,800)円
ISBN 978-4-385-15048-2
人名用漢字の新字旧字:「飲」と「飮」
2009年 1月 29日 木曜日 筆者: 安岡 孝一「飲」と「飮」
新字の「飲」は常用漢字なので子供の名づけに使えるのですが、旧字の「飮」は子供の名づけに使えません。「飲」は出生届に書いてOKだけど、「飮」はダメ。でも、旧字の「飮」も、昭和56年9月30日までは出生届に書いてOKだったのです。
昭和17年6月17日に国語審議会が答申した標準漢字表では、「飮」を含め、食へんは全て旧字体でした。昭和21年11月5日に国語審議会が答申した当用漢字表は、手書きのガリ版刷りでしたが、「飮」を含め、食へんは全て旧字体でした。11月16日に内閣告示された当用漢字表でも、「飮」を含め、食へんは全て旧字体でした。この頃の国語審議会の方針は、食へんに関しては、あくまで旧字体だったのです。そして、昭和23年1月1日の戸籍法改正で、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されたことから、旧字の「飮」が子供の名づけに使ってよい漢字になりました。つまり、昭和23年の時点では、旧字の「飮」は出生届に書いてOKだけど、新字の「飲」はダメだったのです。
ところが、昭和23年6月1日に国語審議会が答申した当用漢字字体表では、「飲」を含め、食へんは全て新字体になっていました。当用漢字字体表は、活字字体の標準となる形を手書きで示したものでしたが、食へんは楷書体に近づける方向で新字体に変更されたのです。昭和24年4月28日に当用漢字字体表が内閣告示された結果、新字の「飲」が当用漢字となり、旧字の「飮」は当用漢字ではなくなってしまいました。当用漢字表にある旧字の「飮」と、当用漢字字体表にある新字の「飲」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「飮」も新字の「飲」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、旧字の「飮」も新字の「飲」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのです。
昭和52年1月21日、国語審議会は文部大臣に、新漢字表試案を報告しました。新漢字表試案は、当用漢字に83字を追加し33字を削除する案で、1900字を収録していました。新漢字表試案1900字は、基本的に明朝体の新字で印刷されており、うち347字にカッコ書きで旧字349字が添えられていました。しかし、新字の「飲」など食へんの漢字には、カッコ書きの旧字はありませんでした。「飲」と「飮」の間に著しい差異はない、と、国語審議会は判断したので、「飲」など食へんの漢字には旧字を添えなかったのです。
昭和56年3月23日に国語審議会が答申した常用漢字表でも、新字の「飲」にはカッコ書きの旧字は添えられていませんでした。これに対し民事行政審議会は、昭和56年4月22日の総会で、常用漢字表1945字を子供の名づけに認めると同時に、常用漢字表のカッコ書きの旧字355字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを、子供の名づけに認めることにしました。この論理にしたがうと、常用漢字表の「飲」にはカッコ書きがないので、旧字の「飮」は子供の名づけに認めない、ということです。
昭和56年10月1日、常用漢字表が内閣告示されると同時に、戸籍法施行規則も改正され、旧字の「飮」は子供の名づけに使えなくなりました。それが現在も続いていて、新字の「飲」は出生届に書いてOKですが、旧字の「飮」はダメなのです。
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【筆者プロフィール】
安岡孝一(やすおか・こういち)
京都大学人文科学研究所附属漢字情報研究センター准教授。
京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)、『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。
http://slashdot.jp/~yasuoka/journal で、断続的に「日記」を更新中。
『三省堂国語辞典』のすすめ その52
2009年 1月 28日 水曜日 筆者: 飯間 浩明尾根はいちばん高いところ?

【尾根のつらなり】
山の「尾根」というと、一般的には、「分水嶺の、いちばん高いところのつらなり」を指します。事実、『三省堂国語辞典』の初版には、そのような説明がありました。ところが、主幹の見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)は、1970年のある日、ふとひらめきました。
〈「尾根」とは、「稜線」の意味だけでなく、「沢」の反対語の場合もあることに気づく。〉(『現代日本語用例全集 1』筑摩書房 1987 p.126)

【尾根1と尾根2】
つまり、「尾根」とは、山頂から山頂へ延びる線を指す以外に、ふもとへ延びる線を指すこともあるというのです。今、かりに、前者を「尾根1」、後者を「尾根2」としておきます。「尾根2」の間には、細長い谷(「沢」)があります。
「尾根2」の例を雑誌から探してみると、たしかに、次のように出てきます。
〈稜線上は強烈な風が吹きつけるが大喰岳〔おおばみだけ〕西尾根を下り始めると弱くなり、よい天気になった。〉(『山と渓谷』1995.6 p.75)
北アルプスの槍ヶ岳(やりがたけ)にある大喰岳の西側の「尾根」です。山頂と山頂の間にあるわけではなく、槍平まで下って行き、その先には新穂高温泉があります。

【第三版の「尾根2」】
このような用法を踏まえて、1982年の『三国 第三版』では、「尾根」の項目が、次のように2つのブランチ(意味区分)に分けられました。
〈(一)山の頂上と頂上を結ぶ、いちばん高いところのつらなり。稜(リョウ)線。「―道」(二)頂上から ふもとへつづく、同じ形の部分。(←→沢)〉
「尾根」に2つの意味を認めたことは、重要な指摘でした。ただ、最後の〈……同じ形の部分。〉という説明のしかたは、いささか不十分でした。今回の第六版の改訂に際して、「意味がよく分からない」として、ブランチを削除する案も出たほどです。でも、どうやら「尾根2」のことらしいと見当がついたため、語釈を修正することになりました。
複雑な地形を要領よく説明するのは、なかなかむずかしいものです。最初の原稿では〈頂上から ふもとへ いくすじも のびている、屋根のような部分。〉としました。でも、「屋根」ではイメージが湧かないという意見があり、没になりました。最終的には、
〈頂上から ふもとへのびる いくすじもの山ひだの、高い部分。〉
として、決着がつきました。「尾根2」の様子をイメージしてもらえるでしょうか。
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◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」
筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。
UNIX によるコーパスデータの処理 (2)
2009年 1月 27日 火曜日 筆者: 阪上 辰也学習者コーパス入門 第18回
まず、簡単にLinuxのインストール方法を紹介します。
作業環境として、Windows マシンを利用されている方が多いかと思いますので、ここでは、Windows を起動している状態で、同時に Linux を起動するための方法を簡単に説明します。必要なものは、Linux という OS そのものと、Windows 上で Linux を起動させるためのソフトウェアの2つです。
Linux も、その Linux を動作させるためのソフトウェアも、無償で利用できるものがありますので、それらをダウンロードして利用します。インストール方法については、Web上に多数情報があります。一例として、Ubuntu という名前の Linux を、VMware Player というソフトを使って動作させるまでの過程を説明したページにリンクしておきますので、参考にしてください(インストール前には、データのバックアップ作業をお忘れなく)。なお、Mac OS X の場合は、OS の基礎部分が UNIX ですので、特別なソフトをインストールする必要はなく、すぐに UNIX 環境で作業をすることができます。
ここからは、UNIX の利用環境が整っている前提で話を進めます。筆者の環境は、Mac OS X (10.5.6) ですので、その環境下での操作法を説明しますが、Linux のような他の UNIX システムでも、同様の操作が可能なはずです。
UNIX を使ったデータ処理では、「ターミナル」というソフトを使います。Mac OS X の場合、「アプリケーション」フォルダを開き、「Utilities」フォルダー内にある「ターミナル」アイコンをダブルクリックすると、ソフトが起動し、以下のようなウィンドウが現れます。この「ターミナル」の画面に、さまざまなコマンドを入力し、データ処理を行うことになります。
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Windows の操作法と最も異なるのは、「コマンドを”文字”で入力する」点です。この点がとても難解に思えて手を出せないという方もいるようですが、コーパス処理に必要なコマンドは、およそ20個程度です。この連載の中でも説明していきます。今回は、最も手軽な検索手法として、サクラエディタでも利用した「Grep」機能を持つ「grep」コマンドを紹介します。grep コマンドは、「指定された文字列を含む行を表示する」というコマンドです。
まずは、NICE のデータがある場所まで移動します。そのために、ターミナルの画面に
cd Desktop/nice_ver1_0/nns
と入力して [return] キーを押します。UNIX では、フォルダ(=ディレクトリとも言います)への移動にもコマンドが必要になります。この時に使うのが、「cd」というコマンドです。これは、「Change Directory」に由来していて、ディレクトリの移動時に使うコマンドです。
上記のコマンドを入力すると、デスクトップ上にある nice_1_0 という NICE のフォルダへ移動し、さらに、その中にある「nns」フォルダの中へ移動したことになります。Windows であれば、フォルダをダブルクリックして、見た目にもフォルダを開いている感覚が得られますが、UNIX では、現在位置を知らせる文字情報しか表示されませんので、この無機質さに慣れるのには、少し時間がかかるかもしれません。
学習者のデータが入った「nns」フォルダに移動することができたら、今度は、
grep “I think” *.txt
とターミナルの画面に入力して [return] キーを押します。「grep」コマンドを使い、「I think」という表現を検索する個アンドです。最後の「*.txt」は、拡張子が TXT になっているものを検索対象にする、という意味です。すると、「I think」が含まれた行が一気に表示されるはずです。一連の操作の模様は、こちらの動画を参照してください。
次回も、「grep」コマンドを使ったデータ処理方法を紹介します。
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▼お知らせ
2008年10月4日に、学習者コーパス「NICE」の正式版を公開しました。無償で利用可能で、特別な手続きは必要ありませんので、ぜひ研究調査にご利用ください。詳しくは、こちらのサイトをご覧ください。
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■筆者プロフィール
阪上辰也(さかうえ・たつや)
名古屋大学大学院 国際開発研究科 特任助教。
専門は、コンピュータを利用した外国語教育。
ウェブサイトは、sakauetatsuya.net。
ダサイ話でごめんなさい
2009年 1月 26日 月曜日 筆者: 新井 皓士クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(36)
太宰治(津島修治)が旧制弘前高校から東京帝大仏文科に入ったのは1930(昭和5)年、21歳のことだった。第一作品集『晩年』(1936)の冒頭に置かれた小説『葉』の標語に、「選ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり」いうヴェルレエヌの一句――故郷金木郊外の芦ノ湖公園にある記念碑には、表に日本語、裏にフランス語でこの句が彫られている――が、少々思わせぶりに掲げられているし、晩年の傑作とされ人気の高い小説に『ヴィヨンの妻』がある。おまけに往時京大には「太宰」某という仏文教授が活躍し、津島在学時の弘前高校には「鈴木信太郎」という校長がいた、というと、家長(兄)の意に反し小説家をめざす太宰・津島の仏文科志願の条件はそろっているようだ。ところが当人は実はフランス語が不得手で、単に入学試験がなかったことが仏文科を選んだ理由というし、筆名も太宰教授にあやかるものではなく太宰府に由来するとか、鈴木校長は『ヴィヨン訳詩集』で名高い鈴木信太郎東大教授とは無縁で、公金使い込みを指弾され津島をふくむ学生達に追い落とされた別人であったとか、調べてみると案外な事情がこぼれ出る。
作品に限っても、「青い花」やら「ダス・ゲマイネ」(津軽語では「ダカラ駄目ナンダ」という意味もあるらしいが)、クライストやらゲーテやらオイレンベルクやら、玉石混交ながらドイツ文学関係の言及が意外なほど多く、辰野先生への敬意はともかくとして、大学の授業にはほとんど出なかった仏文中退者には、高校でたたきこまれた獨語・独文学の影響が尾をひいているといえるのかもしれない。その際たるものが「古伝説と、シルレルの詩から」と明示された『走れメロス』であろう。シラー(Friedrich Schiller)の7行1連、計20連から成る雄勁直截な譚詩『人質(Bürgschaft)』は、主人公ダーモンの行動をひたすら追い、人質となる友の名すら出さないが、太宰の翻案作品はメロディーを思わせる名のメロスを主人公とし、その刎頸の交友をセリヌンティウスとして、さらに幾つかの小説的脚色を加えた470行、8600字余り。補足脚色した主な部分の第一は「暴君」に関するもので、その「邪知暴虐」ぶりと「ちょっとおくれて来るがいい」という悪魔的ささやき、第二は妹の婚礼と花婿へのことば、そして第三は最後の場面で、一瞬「信実」に背く邪念を抱いた友人同士が互いに殴りあい和解することと、ほとんど真裸のメロスに少女がマントを捧げるオチの場面である。むろん古伝説をしらない日本の読者には遥かに理解しやすく感激しやすく快い微笑すら促すものになっている。ただし勇み足もあるにはある。太宰は頃をあえて「初夏」とした。これは河の氾濫を念頭に日本の梅雨時を想定したのであろうが、シラクサ(シシリー島)付近では6月から8月にかけてほとんど雨は降らない。
例の如く「国松文庫」を整理していたら、太宰の『富嶽百景』(昭和18年1月初版)が収まっていた。新潮社から「昭和名作選集」の第28巻として出たもので、表題作品のほか『女生徒』や『駆け込み訴へ』など中期の問題作と並んで『走れメロス』が収録されている。初版1万2千部、定価1円、太宰の検印はあるが、和書の常で国松先生の蔵書印はない。
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【筆者プロフィール】
新井 皓士(あらい・ひろし)
放送大学特任教授・東京多摩学習センター所長 一橋大学名誉教授
専門はドイツ文学・文体統計学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員
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【注】
国松文庫:『クラウン独和辞典』の礎を築かれた故国松孝二教授が一橋大学に寄贈された凡そ二万冊を収めている。
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【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。
日本語社会 のぞきキャラくり 第23回 私の初「ほぅ」体験
2009年 1月 25日 日曜日 筆者: 定延 利之私の初「ほぅ」体験
前回とりあげた『しろばんば』にならって、私の初「ほぅ」体験を語ってみよう。
といっても、自分が生まれて初めて「ほぅ」と言った状況のことなど、よく覚えていない。ここでは、「ほぅ」ということばに生まれて初めて注意を向けた体験を述べる。
むか~し、むかしのことである。
東京のK幼稚園で、私たち年長組は「皆で『かるた』を作りましょう」という課題を与えられた。
「あ」を担当する者は、「あり」なり「あかとんぼ」なり、「あ」で始まることばを考え、その絵を画用紙に描く。「い」を担当する者、「う」を担当する者、「え」を担当する者……と続けて、「わ」あたりまで本当に行ったかどうかは覚えていないが、私は「ほ」を担当することになった。
「ほ」で始まることば、何にしよう。
「ほし」はどうか? ダメダメ。星印を書いて金色に塗るなんて、そんな安易な図柄では私の腕が泣くというものだ。
では、「ほたる」は? これも却下。虫は大嫌いだ。
さんざん悩んだ末にたどり着いたのが「ほぅ」。感心した時につぶやく、あの「ほぅ」である。
では、「ほぅ」の絵はどう描けばいいのか。
バーで男が酒を飲んでいる。
そこへ美しい女が「社長の自殺、裏があるのよ」みたいなことをささやいてくる。
男の目が細く光る。「ほぅ。くわしく聞こうか」
これが、私の考えた情景である。
もちろん、このような複雑な情景が幼稚園児に描けるはずがない。
私の「ほ」の絵はメチャメチャになった。
感心した時に、「ふーん」と言うこと、「へぇ」と言うことは、子供でもやる。だが、「はぁ」と言うこと、そして「ほぅ」と言うことは、子供はやらない。
子供が「はぁ」や「ほぅ」ということばを知らないわけではない。自分が観ているテレビの中で、大人が「はぁ」と言ったり「ほぅ」と言ったりすれば、大人が何かに感心しているということは子供でもわかる。だが、子供は自分では「はぁ」「ほぅ」とは言わない。
子供にとって「はぁ」「ほぅ」が「ふーん」「へぇ」より発音しづらいわけではない。ままごとで『大人』役があたると、「ほぅ、今日はごちそうだね」なんて平気で言う。そのくせ、ままごとが終わると言わない。
子供が「はぁ」や「ほぅ」と言わないのは、自分の柄でない、つまり自分のキャラのことばでないと知っているから言わないのである。
私はなぜバーの描画に立ち向かうことになったのか。これも同じことである。「ほぅ」は『子供』のことばではなく、『大人』のことばだと私は知っていた。だから、私は『大人』を描くしかなかったのである。
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◇この連載の中国語版と英語版
中国語版⇒角色大世界――日本
英語版⇒An Unofficial Guide for Japanese Characters
【筆者プロフィール】
定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm
【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。
地域語の経済と社会 第32回
2009年 1月 24日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第32回「観光歓迎方言「おいでませ山口へ」の系譜 西日本編」
JRの駅などで観光客を歓迎するための標語に、ときどき各地の方言の「いらっしゃい」が使われています。最初は「おいでませ山口へ」でした。
このキャッチフレーズについては面白い話があります。山口県で開催するある大会で、生徒があいさつの中で「おいでませ山口へ」を使おうとしたそうです。ところが誰に聞いても使い方が分からないので、先生に相談したら、「地元の人さえ分からないんだから適当に使え」と言われたんだそうです。
「おいでませ山口へ」は昭和39(1964)年に誕生しました。東京オリンピック、新幹線開通の年です。その2年後には方言リアリズムの連続テレビ小説「おはなはん」が人気を呼びました。当時方言を使ったのが新鮮で、その後の方言復権のきっかけになりました。

【おいでんせぇ岡山へ】

【いもーれ奄美】
全国の「歓迎標語」の例を集めたらどんなパターンが浮かび上がるでしょうか。これまでポスターやパンフレットで集めた例をみましょう。九州にないのですが、九州人がよその人を歓迎しないのでなく、単に網にかからなかったのでしょう。
以下に西日本の実例をあげます。書き出して、こんなことに気づきました。「おいで」系の表現が全国に広がっています。黄色にしてみました。「来る」の様々な言い換えよりは敬意の高い言い方です。読んだ方は、何に気づくでしょうか。
近畿 京都は、連載第24回「京都ことばはノリノリどすえ!!」で「おこしやす」「おいでやす」の2種が報告されました。「おこしやす」は滋賀県の彦根城でも使われていました。大阪は、方言みやげが多いのに歓迎のあいさつは未発見です。「もうかりまっか」があいさつという土地柄でしょうか。
中国 「おいでませ山口へ」に似たのが、「おいでんせぇ岡山へ」です。「ようきんさったのう広島へ」と「よう来(き)んさった」鳥取市も似ています。
四国 松山では「ようおいでたなもし」と、漱石の「坊ちゃん」で有名になった「なもし」を使っています。今は実際に使う人がいない絶滅危惧種の方言です。

【ヰードゥ イモシャッカー】

【めんそ~れ沖縄】
九州 未発見です。
琉球方言 鹿児島県の奄美諸島は、方言学的には本土方言でなく、琉球方言に区分されます。奄美大島では、「いもりんしょーれ」「いもーれ」とさかんに歓迎されます。空港の出口の看板では「ヰードゥ イモシャッカー(WELCOME TO AMAMI)」と、英語と同居して、歓迎してくれます。
沖縄県では各地で盛んに歓迎のことばが見られます。「めんそーれ」が主体です。
まだまだ不十分な資料ですから、情報をいただけたら幸いです。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。
著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『デジタル社会の日本語作法』(岩波書店)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
「辞書引き学習」の立命館小訪問記
2009年 1月 23日 金曜日 筆者: ogm
紅葉の彩りも深まったころ、京都・北大路にある立命館小学校にお邪魔してきました。立命館小は2006年4月に開校、現在は5年生までが学んでいます(はじめ3年生と1年生の募集だったため)。
私たち、辞書の編集部が訪れた理由は、小学生の辞書利用の様子を直接この目で見るため。立命館小は「辞書引き学習」を授業(というよりも学校生活全般)に取り入れ、児童の興味・好奇心や学習意欲を喚起し、実践している学校として、保護者の方、教育界や、出版界などの注目の的となっています。
深谷圭助校長先生は、「辞書引き学習法」の提唱者。『7歳から「辞書」を引いて頭をきたえる』(すばる舎)、『辞典・資料がよくわかる事典―読んでおもしろい もっと楽しくなる調べ方のコツ』(PHP研究所)、「辞書引き学習自学ドリル」シリーズ(MCプレス)など多数のご著書があります。
ことばへの興味・関心が高まっている小学1年生から辞書に親しみ、辞書引き学習を身につけることは、学力向上につながり、辞書を引くことそのものの楽しさを知ることができる、ということが、それぞれのご著書からうかがえるのですが……やはり自分の目で、小学生がどのように学習しているのか見たいという思いがあり京都まで出かけました。
立命館小に着くと、深谷校長先生が校内を案内してくださいました。まず、どこも広い廊下、ゆったりとしたスペースです。校内には、畳敷きの伝統文化室、ロボットのプログラム・操作ができる部屋、図画工作の授業として茶道の茶碗をつくるなど陶芸に親しむ陶芸室、演劇や合唱など舞台の練習・発表ができるシアターもあります。メディアセンター(図書室)にはさまざまなジャンルの本があり、調べ学習に最適な資料もかなりの量、絵本や小説などは月ごとのテーマで置かれるものが変わるとのことでした。
さて、気になる授業の様子ですが……⇒続きは来週掲載いたします!
【編集部からのお知らせ】
「辞書引き学習」基本のステップは五つ! 今すぐ始めたい方はこちらをご覧ください。
⇒「辞書引き学習」とは(監修:深谷圭助)
「やってみよう!」 「辞書引き学習」への取り組み―先生方・保護者の方へ―
最新のイベント情報は右にあります「おすすめ記事」からご覧ください。今後のイベント情報、また、これまでの報告など関連情報は以下からもご覧いただけます。
⇒辞書引き学習についての情報
三省堂では、書店さんといっしょに「辞書引き学習」の体験会を考えました。活動のもようは以下をご覧くださいませ。
⇒深谷圭助先生の「辞書引き学習体験会」のご紹介
編集部で立命館小へうかがいました。以下に訪問記を掲載しています。
⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記1
⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記2
★深谷先生から推薦をいただいております
例解小学国語辞典 第四版
編者:田近洵一
B6判 1,216ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13821-3
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13822-0
例解小学漢字辞典 第三版 新装版
編者:林 四郎(主幹)・大村はま
B6判 1,152ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13817-6
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13818-3
★立命館小学校で使われています
クラウン学習国語百科辞典
監修:金田一春彦 編者:三省堂編修所
A5判 1,200ページ 3,990(本体3,800)円
ISBN 978-4-385-15048-2
漢字の現在:「可」もなく「不可」もなく?――成績の漢字
2009年 1月 22日 木曜日 筆者: 笹原 宏之漢字の現在 第30回 「「可」もなく「不可」もなく?――成績の漢字」
この時期、重要な仕事であるだけに憂鬱になることがある。それは成績付けだ。
大学や学部ごとにそのルールが微妙に異なる。一人ずつの素点で提出せよ、という学部事務所もある。出席などの平常点に、答案、レポートなどの採点結果を加えて点数をはじき出すという方針が多そうだが、その方法は教員によって様々だ。昔、ある御仁が答案やらレポートを階段から投げ、あるいは扇風機で飛ばし、飛距離に応じて成績を付けたなどという話もまことしやかに伝わっているが、そんなことはできない(学業成績の「低空飛行」という比喩は、これと発想に多少関わるところがあったのだろうか)。
絶対評価か相対評価かなどという議論とは別の次元で、レポートに代筆はないか、WEBからの無断コピペはないかなど、詰まらないことにまで気を回さなければならない。他者の間で同一の中身のものがあったり、何かにつけ言い訳めいたことが書かれていれば、対応をどうとるべきか千々に頭を悩ませる。
半年、一年と講義を受けて、その内容を自身の頭で主体的に消化し、それを基に観察、考察を加えた作には、かなりの読み応えがあるものも交じっている。そうした進展の跡の著しいものを見いだすなど、きちんと見分けてから評価を記さなければならない。他者に対する評価は、概して自己の眼力を問われることであり、どうしても消耗する。かつて恩師が一年で一番厭な時期なんだと吐露されていたが、半期化の流れの中で、その機会も倍増し、しかも採点期間が短縮されてしまった。
たくさんの受講者がいれば(報酬は一切変わらなくとも)成績も何百人分と付けることになる。それらを真剣に見抜いて評価しなければ、講義や演習にきちんと向き合ってくれた学生たちにも申し訳が立たない。発憤を促すためにも辛い評価をせざるをえないこともある。もう1年一緒にやろう、と判断しなくてはならないケースも出てくる。むろん、「楽勝科目」とレッテルを貼られて、向学心を一切もってもらえない受講者が増えても困る。
相互評価が制度化されてきたが、学生の側は皆が上述のようなことを理解した上で実行しているかどうか、時に嘆かわしくなることもある。学生たちの間で独自に授業の評判を「★★☆」「楽勝」などと示した冊子も書店などで売買されている。面と向かってなされないそれらを認めない、と述べる恩師もいらした。単に論評しかできない人にはなってはいけない、と私も思っている。
さて、成績表には、仮に素点で付けても、成績通知には「A+」「A」「B」「C」「D」「E」「F」など、ローマ字で何段階かの成績評価が示されるようになっている。それらが、「秀」「優」「良」「可」といった漢字1字へと置き換えられることもあった。これは戦前からの伝統を有するもので、「不可」だと落第だ。実存主義文学者の「カフカ」の名は縁起が悪い、なんて言われたりしたゆえんだ。
「優」と「秀」ではどちらが好成績と感じられるだろうか。「優秀」の「ユウ」と「シュウ」だが、「秀才」(元は科挙の用語 第8回、第17回参照)の「秀」、訓読みでは「すぐれる」と「ひいでる」など、なるほど「秀」のほうが良さそうに思えてこよう。私も在学中には、「彼は、全優だ」なんていう話を、聞いたこともあった。この場合は「秀」に該当する成績も含んでいる。
以前には「甲」「乙」「丙」「丁」などの表示もあったそうだ。役場などの勤務評定では「秀」から始まり、「不可」の代わりに「劣」という評価もあるのだとか。さすがに「実社会」は、形式的なものかもしれないが、教育現場よりもシビアなようだ(注)。
さてこの「優」「良」「可」などの成績には、漢字圏において興味深い一致と差が生じていることが次第に分かってきた。次回以降、実際に比較をしつつ考えていきたい。
(注)なお、関係はないが、どちらが先なのか、野菜・果物などの評定も「秀」「優」「良」「可」「不可」となされているのだそうだ。
◇「優」の字については、第20回参照。
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【筆者プロフィール】
笹原宏之(ささはら・ひろゆき)
早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。博士(文学)。日本のことばと文字について、様々な方面から調査・考察を行う。早稲田大学 第一文学部(中国文学専修)を卒業、同大学院文学研究科を修了し、文化女子大学 専任講師、国立国語研究所 主任研究官などを務めた。経済産業省の「JIS漢字」、法務省の「人名用漢字」、文部科学省の「常用漢字」などの制定・改正に携わる。著書に、『日本の漢字』(岩波新書)、『国字の位相と展開』(三省堂)、『訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語』(光文社新書)などがある。2007年度 金田一京助博士記念賞を受賞。
【編集部から】
漢字、特に国字についての体系的な研究をおこなっている笹原宏之先生から、身のまわりの「漢字」をめぐるあんなことやこんなことを「漢字の現在」と題してご紹介いただいております。前回は「「餅」のイメージ」でした。
この連載への質問、また「ここでこんな字が使われていた」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「漢字の現在」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
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2007年









