地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第30回 大橋敦夫さん:「方言絵はがきの今」

筆者:
2009年1月10日

方言グッズの定番といえば、一昔前は、手ぬぐい・のれん・絵はがきと相場が決まっていました。駅前の土産物店に行けば、いつでも手に入ると思われていたこれらの品々も、現在は、実のところ、なかなか見つけにくい物になってしまいました(主力は、このウェブでご紹介しているような物品に変わっています)。

方言絵はがきに限ってみても、戦前の方がむしろ盛んで、各地でいろいろなものが作られていました。筆者が集めたものでも、青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島・富山・石川・福井・愛知・京都・大阪・広島・高知・福岡・佐賀・長崎・熊本・鹿児島の方言絵はがきがあります(なお、方言絵はがきを中心とする方言グッズのコレクションは、山形県三川町に、故徳川宗賢先生が寄贈されたものがあります)。

戦後のものは、あまり見かけず、最近では、筆者の知るかぎり渋谷伯龍氏の作品(津軽弁がモチーフ)があるのみで、しばらく不遇をかこっていた分野なのです。

と、ここに来て、山口弁をあしらった年賀状が作られました。

【「ほのぼの山口弁劇場」年賀状】
【「ほのぼの山口弁劇場」の年賀状】
(全部で4パターンあります。クリックで全パターンを拡大します)

干支のウシのイラストに、「え~一年になりゃえ~ね」「どね~しちょる?」「元気にしちょる?」「ごぶさたしちょります」の一言が添えられています。それぞれの一言には、ホッとさせるものがありますね。

すこし前の話ですが、「ないものは自ら作る」をモットーに、学生と共に方言絵はがきを作ったことがあります。地元の信州方言のセットと、出身者の多い新潟県版の2種です。

【信州版方言絵はがき】
【信州版方言絵はがき】
(5パターンあります。クリックで全パターンを拡大します)
【新潟県版方言絵はがき】
【新潟県版方言絵はがき】
(5パターンあります。クリックで全パターンを拡大します)

当時は、知り合いにもお配りして、けっこう喜ばれました。手元に残った絵はがきを見ながら、また、チャレンジしてみようかなどと思っています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。