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地域語の経済と社会 第32回

2009年 1月 24日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第32回「観光歓迎方言「おいでませ山口へ」の系譜 西日本編」

 JRの駅などで観光客を歓迎するための標語に、ときどき各地の方言の「いらっしゃい」が使われています。最初は「おいでませ山口へ」でした。

 このキャッチフレーズについては面白い話があります。山口県で開催するある大会で、生徒があいさつの中で「おいでませ山口へ」を使おうとしたそうです。ところが誰に聞いても使い方が分からないので、先生に相談したら、「地元の人さえ分からないんだから適当に使え」と言われたんだそうです。

 「おいでませ山口へ」は昭和39(1964)年に誕生しました。東京オリンピック、新幹線開通の年です。その2年後には方言リアリズムの連続テレビ小説「おはなはん」が人気を呼びました。当時方言を使ったのが新鮮で、その後の方言復権のきっかけになりました。

【おいでんせぇ岡山へ】
【おいでんせぇ岡山へ】
【いもーれ奄美】
【いもーれ奄美】

 全国の「歓迎標語」の例を集めたらどんなパターンが浮かび上がるでしょうか。これまでポスターやパンフレットで集めた例をみましょう。九州にないのですが、九州人がよその人を歓迎しないのでなく、単に網にかからなかったのでしょう。

 以下に西日本の実例をあげます。書き出して、こんなことに気づきました。「おいで」系の表現が全国に広がっています。黄色にしてみました。「来る」の様々な言い換えよりは敬意の高い言い方です。読んだ方は、何に気づくでしょうか。

近畿 京都は、連載第24回「京都ことばはノリノリどすえ!!」で「おこしやす」「おいでやす」の2種が報告されました。「おこしやす」は滋賀県の彦根城でも使われていました。大阪は、方言みやげが多いのに歓迎のあいさつは未発見です。「もうかりまっか」があいさつという土地柄でしょうか。

中国 「おいでませ山口へ」に似たのが、「おいでんせぇ岡山へ」です。「ようきんさったのう広島へ」と「よう来(き)んさった」鳥取市も似ています。

四国 松山では「ようおいでたなもし」と、漱石の「坊ちゃん」で有名になった「なもし」を使っています。今は実際に使う人がいない絶滅危惧種の方言です。

【ヰードゥ イモシャッカー】
【ヰードゥ イモシャッカー】
【めんそ~れ沖縄】
【めんそ~れ沖縄】

九州 未発見です。

琉球方言 鹿児島県の奄美諸島は、方言学的には本土方言でなく、琉球方言に区分されます。奄美大島では、「いもりんしょーれ」「いもーれ」とさかんに歓迎されます。空港の出口の看板では「ヰードゥ イモシャッカー(WELCOME TO AMAMI)」と、英語と同居して、歓迎してくれます。

 沖縄県では各地で盛んに歓迎のことばが見られます。「めんそーれ」が主体です。

 まだまだ不十分な資料ですから、情報をいただけたら幸いです。

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。
著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『デジタル社会の日本語作法』(岩波書店)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)などがある。 

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2009年 1月 24日