地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第35回 大橋敦夫さん:方言かるた(おまけ)

筆者:
2009年2月14日

第33回の落穂ひろいにチャレンジしてみることにします。

さらに現物確認のできたもの

以下の2点を入手しました。

① 『出雲弁だんだんかるた』

監修/藤岡大拙(出雲弁保存会会長) 制作・販売/山陰中央新報社(松江市)

*出雲弁で読み上げるCD付き

い:「出雲弁 使って ごしなって だんだん だんだん」〔= 出雲弁を使ってもらって、ありがとう〕

② 『鹿児島ことば あそびうた かるた』

作/植村紀子 画/原田美夏 発行/南方新社(鹿児島市)

い:「いっだまし〔= 精魂〕入れ覚える 「魂」という字」

商業ベースに乗らないものも

また、次の2点も、方言かるたではありますが、商業ベースに乗らないところから作成されたもので、その過程がユニークなものです。

① 『安曇野方言カルタ』

制作/池田町囲炉裏端愛好会 発行人/「安曇野方言カルタ」制作委員会事務局(長野県北安曇郡池田町)

い:「いいどこじゃねえ あがっとくれや おしげなく」〔= もちろんいいですとも。召し上がってください(部屋の中へ入ってください)。遠慮することなく。〕

『安曇野方言カルタ』
【『安曇野方言カルタ』】

発行人のお一人である牛越敏夫氏の主宰する池田町囲炉裏端愛好会のメンバーが、地域コミュニティの崩壊を憂い、カルタ取りを通して地域住民の融和が図られることを企図して制作。牛越氏によると、増刷を2回おこない、大変な好評をもって迎えられたとのことです。

 

② 『見附弁いろはかるた』

グリーン・ホームふたば(新潟県見附市)

い:「いらんかねー、いらんかのー リヤカーひいて野菜売り」

こちらは、福祉現場で生まれたもの。お年寄りとの生きた会話の中から発想され、制作も完全手作り。構想段階から、ケアーする方々ともども活気づいたとの由。

『上毛かるた』の規模には、及ばないものの、それぞれの地域で活用されている事例が生まれているのは、心強い限りです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。