耳の文化と目の文化(11)-視覚的な特性(4)
2009年 2月 23日 月曜日 筆者: 新田 春夫クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(40)
küssen [kʏsən]「キスをする」、wollen [vɔlən]「…するつもりである」、können [kœnən]「…できる」などにおける二重子音はもともとは子音1個の2倍の長さをもつことを表しており、子音と子音の間には音節の切れ目があった。従って、これらの語が1音節になったときは子音はひとつで表記されていた。しかし、近世になって二重子音は前の母音が短いことを表す記号になり、上記の例の発音記号を見ればわかるように子音の長さも1個分にしか発音されなくなったが、1音節の語になったときも子音を重ねてもとの語との同一であることを表示するようになった:Kuss「キス」, will(直説法現在1・3人称単数形)、 kann(直説法現在1・3人称単数形)。
従来、合成語において子音が3つ重なったときは発音どおりに子音2つで表記されていたが、新正書法では語の構成どおりに書くこととなった:Schifffahrt [ʃɪffa:rt]「船の航行」、Balletttänzer[balɛttɛntsɐ]「バレーダンサー」、Stillleben [stɪlle:bən]「静物」。また、前の母音が長いことを表す無声のhの後に接尾辞-heitがきたときもhを省略しないこととなった: Rohheit [ro:haɪt]「粗野なこと」(< roh [ro:]「粗野な」)。
語源的連関を示す個別的な例もある:vier「4」の母音は単独では[fi:ɐ]と長いが、vierzehn「14」, vierzig「40」となると[fɪrtse:n]、[fɪrtsɪç]と短母音になるが、もとのとおり長音の[i:]を表すieと表記されている。また、Zierat [tsi:ra:t]「飾りもの」は中世語ではzieren「飾る」の動詞語幹に接尾辞-otをつけた派生語であったが、Vorrat「蓄え」、Hausrat 「家財道具」などのにおける-rat「備品、用具」との連想により、Zier-ratと解釈され、発音も[zi:ɐra:t]となった。更に、nummerieren [nʊməri:rən]「番号をつける」、platzieren [platsi:rən]「配置する」などはラテン語、フランス語からの外来語であり、原語ではそれぞれnumero, placerであるから、ドイツ語でもnumerieren、 plazierenでよいのであろうが、ドイツ語では名詞をNummer, Platzと表記するために、新正書法ではこれとの関連を示して上記のように書くこととなった。
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【筆者プロフィール】
新田 春夫(にった・はるお)
武蔵大学教授
専門は言語学、ドイツ語学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員
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【編集部から】
「耳の文化と目の文化」をまとめて読むにはこちらです。
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。
2009年 2月 23日







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