2009年 2月 のアーカイブ

『三省堂国語辞典』のすすめ その53

2009年 2月 4日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

「香盤」。古語ではありませんよ。

【香盤(筆者描く)】
【香盤(筆者描く)】

 『三省堂国語辞典 第六版』に、「香盤(こうばん)」という、人によっては聞きなれないかもしれないことばが載りました。いったい、何のことだと思いますか。

 とりあえず、『三国』を引いてみます。〈格子(コウシ)状の おおいのついた香炉(コウロ)〉という説明があります。香炉は〈香をたく入れもの〉です。格子でおおった香炉は、博物館などで見られないこともありませんが、日常生活ではそれほど接する機会はありません。『三国』は、現代語を多く収録することが特色のはずです。「香盤」をわざわざ新規項目として入れたことに違和感を持つ人もいるかもしれません。

 じつは、このことばは、その次に書いてある意味が、現代では重要です。

 〈〔演劇・映画などで〕俳優の名と出演する場面を表(ヒョウ)にしたもの。香盤表。〉

 この意味の「香盤(表)」は、わりあいよく使われます。たとえば、小林旭さんがテレビ番組で、無名のころの撮影所でのエピソードを次のように語っていました。

 〈香盤というスケジュール表があってね、そこに「出(で)」というはんこを押して出てくと、「おい、そこの通行人」ってやつの中に入るわけだ。〉(NHK BS2「日めくりタイムトラベル」2008.4.12 20:00 放送)

【ドラマ台本の香盤】
【ドラマ台本の香盤】

 石原良純さんは、新人のころ、台本に事細かに書き込みをしていたそうです。

 〈『西部警察』と『太陽にほえろ』の登場編の台本には、自分の出演シーンの香盤(こうばん)や衣裳の詳細、物語の日替わりを示す赤線や、“力強く” “落ち着いて”なんて演技プランの書き込みが随所にある。〉(『週刊新潮』2006.12.28 p.74)

 香炉の名前が出演スケジュール表の意味で使われるようになったのは、ちょっと考えると不思議な感じがします。でも、形をイメージすれば、理由はすぐ分かります。香炉の格子模様と、表のマス目が似ているからです。このたとえ方からして、出演スケジュール表の意味はかなり昔からあったと考えられます。

【歌舞伎座の香盤】
【歌舞伎座の香盤】

 「香盤」には、まだいくつか意味があります。『三国 第六版』では、〈劇場の座席表〉の意味も入れました。昔の芝居小屋の座席は「升(ます)席」で、ちょうど、香炉の格子形のおおいにそっくりでした。いす席になった今でも、この意味が残っています。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

そのつど終りとする日日

2009年 2月 2日 月曜日 筆者: 藤井 忠

クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(37)

クラウン独和執筆の頃のことを再び記します。単語の一つ一つについて原稿を書いていました。一語一語について、そのつど、終りとしていました。

辞書どくとくの制約のなかで、語義や用例など、ノートに書き出した諸々について、選択をし決断をします。選択・決断という大きな言葉を用いましたが、しかし、優柔不断な私には日日の執筆のなかで殊のほかこの事が意識されていました。

このようなときには、Resignationという言葉が浮かんできて心をとらえます。しかし一方には、限られたなかで、なお究めたいという気持がいきいきとあります。

最後は、三省堂特製の原稿用紙に書き記し(また何度か書き直したりして)、これで終り、とします。語によっては幾日かを、幾週間かを費やしました。場合によってはもっと多くの日日を経ていることもありました。頭はまだこの単語で燃えています。そっと枕に横たえたいが、眠るにはあまりにはげしく燃えたつのを感じています。

ところで、ある時から論文の原稿などはワープロに打ち込み始めました。文章が活字となって眼前にあり、自分の文をより客観的に見られるようになりました。しかも文の修正が実に容易になりました。だが、何時でも・何時までも・容易に修正できる、ということが、つまり無限に修正可能であるということが、微妙に作用してきたのです。「未完」であるという気分がいつもつきまとうのです。

さて、かくして一つの語について「終り」とすることができました。だが原稿は他の執筆者の眼を経ていくのであり、「完成」ではありません。この一語は形を得ることで、いまようやくその「途上」にある、と言ったほうがよいでしょう。私は机の上に置かれている語彙表にしたがって次の単語に向かうのであります。


【筆者プロフィール】
藤井 忠(ふじい・ただし)
横浜国立大学名誉教授
専門はオーストリア文学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員


【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

深谷圭助先生の辞書引き学習体験会(3月1日)

2009年 2月 1日 日曜日 筆者: 辞書ウェブ 編集部

以下のイベントは終了いたしました。イベントのもようはこちらをご覧ください。
 ⇒報告:深谷先生の辞書引き学習体験会

「辞書引き学習」基本のステップは五つ! 今すぐ始めたい方はこちらをご覧ください。
 ⇒「辞書引き学習」とは(監修:深谷圭助)
 「やってみよう!」 「辞書引き学習」への取り組み―先生方・保護者の方へ―

ご家庭での取り組みの参考にと、深谷先生にインタビューをさせていただきました。以下をご覧ください。
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《前編》
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《後編》

最新のイベント情報は右にあります「おすすめ記事」からご覧ください。今後のイベント情報、また、これまでの報告など関連情報は以下からもご覧いただけます。
 ⇒「辞書引き学習」についての情報

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『三省堂 例解小学国語辞典 第四版』刊行記念
親子いっしょに、深谷先生の「辞書引き学習」を体験しよう!

 すべての漢字にふりがなを付け一年生からでも使える『三省堂 例解小学国語辞典 第四版』が、このほど刊行されました。これを記念して、この辞典の推薦者でもある、辞書引き学習の提唱者として著名な深谷圭助先生が、みずから辞書引き学習を指導して下さいます。この機会に、親子でぜひ、楽しみながら言葉の力をつける辞書引き学習をご体験下さい。

日時:2009年3月1日(日)  13:30開場 14:00開始 15:00終了
場所:丸善・丸の内本店3F 日経セミナールーム
    東京都千代田区丸の内1-6-4
講師:深谷圭助先生(立命館小学校校長)
募集人数:32組×2名=64名(先着順)
対象年齢:小学校1・2・3年生のお子様と保護者
応募方法:店頭または電話にて受付(定員になり次第終了)
    代表電話 03-5288-8881
持ち物:なし(辞典や筆記用具は主催者側で用意いたします)
    なお、当日お使いいただいた辞典はプレゼントいたします
主催:丸善丸の内本店

【編集部からのお知らせ】

上記のイベントは終了いたしました。イベントのもようはこちらをご覧ください。
 ⇒報告:深谷先生の辞書引き学習体験会

このウェブサイトにて、深谷先生のインタビューを掲載しています。以下をご覧ください。
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《前編》
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《後編》

編集部で立命館小へうかがいました。以下に訪問記を掲載しています。
 ⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記1
 ⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記2

深谷圭助先生の辞書引き学習体験会(2月28日)

2009年 2月 1日 日曜日 筆者: 辞書ウェブ 編集部

以下のイベントは終了いたしました。イベントのもようはこちらをご覧ください。
 ⇒報告:深谷先生の辞書引き学習体験会

「辞書引き学習」基本のステップは五つ! 今すぐ始めたい方はこちらをご覧ください。
 ⇒「辞書引き学習」とは(監修:深谷圭助)
 「やってみよう!」 「辞書引き学習」への取り組み―先生方・保護者の方へ―

ご家庭での取り組みの参考にと、深谷先生にインタビューをさせていただきました。以下をご覧ください。
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《前編》
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《後編》

最新のイベント情報は右にあります「おすすめ記事」からご覧ください。今後のイベント情報、また、これまでの報告など関連情報は以下からもご覧いただけます。
 ⇒「辞書引き学習」についての情報

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『三省堂 例解小学国語辞典 第四版』刊行記念
親子いっしょに、深谷先生の「辞書引き学習」を体験しよう!

 すべての漢字にふりがなを付け一年生からでも使える『三省堂 例解小学国語辞典 第四版』が、このほど刊行されました。これを記念して、この辞典の推薦者でもある、辞書引き学習の提唱者として著名な深谷圭助先生が、みずから辞書引き学習を指導して下さいます。この機会に、親子でぜひ、楽しみながら言葉の力をつける辞書引き学習をご体験下さい。

日時:2009年2月28日(土)  14:15開場 14:30開始 15:30終了
場所:小田急「成城学園前駅」駅ビル「成城コルティ」2F「エルヴェ」
講師:深谷圭助先生(立命館小学校校長)
募集人数:25組×2名=50名(先着順)
対象年齢:小学校低学年のお子様と保護者
応募方法:三省堂書店成城店に来店もしくは電話にて予約
    電話 03-5429-2401
持ち物:辞典や筆記用具は主催者側でご用意いたします
主催:三省堂書店成城店

【編集部からのお知らせ】

上記のイベントは終了いたしました。イベントのもようはこちらをご覧ください。
 ⇒報告:深谷先生の辞書引き学習体験会

このウェブサイトにて、深谷先生のインタビューを掲載しています。以下をご覧ください。
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《前編》
 ⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《後編》

編集部で立命館小へうかがいました。以下に訪問記を掲載しています。
 ⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記1
 ⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記2

日本語社会 のぞきキャラくり 第24回 『お嬢様』考

2009年 2月 1日 日曜日 筆者: 定延 利之

『お嬢様』考

 前2回(⇒前回前々回)で触れた井上靖の『しろばんば』には、主人公の洪作のほかにも、さまざまな子供たちがあざやかに描かれている。

 その中で何と言っても忘れられないのは蘭子である。蘭子は『お嬢様』キャラの見本のような少女である。

 そもそも、「おだまり!」「おやめ!」のように、動詞(いまの例なら「だまる」「やめる」)の連用形(「だまり」「やめ」)の前に接頭辞「お」を付けた形の発言で他人に命令するのは、『マダム』キャラの得意技である。『しろばんば』では、洪作のきつい母親・七重が、洪作の体を洗ってやる場面でこの技を連発するが、なんと蘭子も、洪作よりも年下の年令でありながら、

 「うしろ向きになってお歩き」

 「お黙り! お前さん、何言ってるんだ。何も判りもせんくせして」

などと、この技をやってのけている。これが『お嬢様』でなくて何であろう。さすがに「お前さん」以下の発言部分は大人の物言いを聞きつけて借りたという印象がぬぐえないが、それでもたとえば、アニメ『サザエさん』のタラちゃんが「要するに」ということばを覚えて事あるごとに「要するに」と言ってまわる、といった子供らしい事例よりははるかに、ことばが自分のものになっている。

 蘭子が繰り出す技はこれだけではない。「さ」と言って人を促す技は、これもやはり『大人』の技で、『しろばんば』でも使い手といえば、老婆、祖父、父、母、叔母、先生、……という具合に大人ばかりである。ところが、蘭子は子供であるにもかかわらず、

 「さ、早く言いなさい」

 「さ、蘭子ちゃん、海へ行くわよ。みんないらっしゃいよ」

などと言っている。

 もちろん、自分のことを「蘭子ちゃん」と言ってしまうところは『子供』である。洪作に負けまいと、腕まくりをして海に向かって石を投げるところ、カステラを天井に投げつけたりするところも『子供』である。

 だが、蘭子の大人びた物言いの技は、「あーら、いらっしゃい」の「あーら」や「あら、跳び込めるの?」のような、下降調イントネーション「あ(ー)ら」での驚き、「そう、それは知らなかったわ」のような「そう」での了解、「そんなら跳び込んでごらんなさい」のような「~してごらんなさい」での命令など多彩であり、なかなか板についている。

 蘭子のように、『子供』がうっすら残るとはいえ、『大人』特に『マダム』キャラが或る程度「地」になっているもの。『お嬢様』キャラとは、つまるところこのようなものではないだろうか。

 

 だが、いま『お嬢様』キャラとして述べたものは、実は『お嬢様』キャラの1タイプでしかない。『お嬢様』キャラには別のタイプもある。(次回に続く)

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◇この連載の中国語版と英語版
  中国語版⇒角色大世界――日本
  英語版⇒An Unofficial Guide for Japanese Characters

【筆者プロフィール】

最新刊『煩悩の文法』(ちくま新書)定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm

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【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。

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