耳の文化と目の文化(12)-視覚的な特性(5)
2009年 3月 2日 月曜日 筆者: 新田 春夫クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(41)
合成語、派生語の場合、語源意識は人によってさまざまである。第6回で、従来のbehende [bəhɛndə]「手際のよい」、Stengel [ʃtɛŋəl]「茎」、verbleuen [vɛɐblɔyən]「ぶちのめす」といった語が新正書法ではHand「手」、Stange「竿」、blau「青い」との語源的関連を示すべくbehände、Stängel、verbläuenと表記されることに違和感を持つ人が多いことに触れた。他にも、Greuel [grɔʏəl]「残虐行為」をgrauen「恐ろしい」と関連とのでGräuelとし、überschwenglich [y:bɐʃvɛŋlɪç]「大げさな」をÜberschwang「感情の高揚」と関連づけて、überschwänglichと表記するのは語源学的には正しいかも知れないが、どれだけの人がそんな知識があるか疑わしい。また、schneuzen [ʃnɔʏtsən]「鼻をかむ」をSchnauzeとの関連づけてschnäuzenとしたが、Schnauzeは「動物の鼻づら」であり、人間に使うのは俗語で、その意味は「口、顔」であるから適切だとは言えない。また、新正書法ではaufwendig [aʊfvɛŋdɪç]「費用のかかる」を名詞Aufwand「費用」と関連づけてaufwändigとする表記を推奨しているが、動詞aufwendenと関連づけることもできるのである。
語源的関連を示すとは言っても見た目に美しくない場合は従来どおり発音にあわせて書く:Säle [zɛ:lə](Saal [za:l]「広間」の複数形)、Bötchen [bø:tçən](Boot [bo:t]「船」の縮小形。Bootchenという形もある)、Seen [ze:ən](See [ze:]「海」の複数形)。
ギリシア語やラテン語などからの外来語をウムラウトによって表記するものがあるが、これは語源の同一表記とは関係がない。Pädagoge [pɛdago:gə]「教育者」はギリシア語からラテン語に入ったpaedagogusが、Präsident [prɛzidɛnt]「大統領」はラテン語praesidensがドイツ語に入ったものであるが、これらの語中のaeがドイツ語ではウムラウトで表記されたものである。また、März [mɛrts]「3月」はローマの軍神Martiusから、Käse[kɛ:zə]「チーズ」はラテン語のcaseusに由来するが、これらの語のウムラウトはドイツ語に入ってから、aの後に来る母音iやeによって引き起こされたものである。また、Säbel [zɛ:bəl]はポーランド語からハンガリー語になったszablyaがドイツ語に入ったものだが、これもドイツ語になってからウムラウトを起こした。
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【筆者プロフィール】
新田 春夫(にった・はるお)
武蔵大学教授
専門は言語学、ドイツ語学
『クラウン独和辞典第4版』編集委員
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【編集部から】
「耳の文化と目の文化」をまとめて読むにはこちらです。
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。
2009年 3月 2日







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