地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第39回 山下暁美さん:もてなしの方言(東海地方)

筆者:
2009年3月14日

東海地方で歓迎を表すもてなしの言葉には、主に動詞の「寄る」「来る」「行く」などの派生した形が使われています。「行く」の例で、「行かにゃ損」(愛知県観光協会)は、もてなしというより、最も端的に行く気を誘う表現といえましょう。またの機会にとり上げますが、人の訪問を受けたときの挨拶で「おあがり」をもとにした「あがらっしゃれ」(山形)もあります。どれもこれも共通語にはない、迫力、説得力が感じられます。

(写真はクリックで拡大します)

左:【写真1】 中:【写真2】 右:【写真3】
左:【写真4】 中:【写真5】 右:【写真6】
左:【写真7】 右:【写真8】

神奈川、千葉など関東周辺出身の大学生12人に聞いてみました。8つの案内パンフレットをもらったとして、どこへ最も行きたくなるか、上位3位までを選んで、理由を言ってくださいというものです。ただし、質問では地名を省きました。「まだ、尾鷲(おわせ)には行ったことがないから行きたい」という表現以外に起因する答えを避けるためです。

その結果、最も行きたくなるのは、「きてぇな」で、第二位は、「よってりゃぁ~」、第三位は、「おいでんかな」でした。主な理由は、「聞いたことがある表現」「かわいらしい」「やわらかい」「あたたかい」「控え目」でした。小文字の響きがいいという人もいました。「行かにゃ損」は、上位三位には入りませんでしたが、「行かないと損しそうで気になる」という意見がありました。関東地方で耳慣れない表現や、少し押しが強いと感じられる表現は下位でした。

もてなしの方言(東海地方)
写真1 よってりゃぁ~みたけ 可児郡御嵩町 岐阜県
写真2 おいでんかな 郡上市
写真3 きてみんけな! 高山市一ノ宮町
写真4 岐阜県へおんさい!! (観光連盟)
写真5 船に乗って来てぇな 鳥羽市 三重県
写真6 こいまぁ尾鷲へ 尾鷲市
写真7 行かにゃ損 (観光協会) 愛知県
写真8 おいでん! とよた 豊田市

ここでは、東海地方に限って8枚の写真をあげましたが、24回(京都)31回(岩手・沖縄)32回(岡山・山口・琉球)34回(滋賀)36回(岩手・富山)にも関連記事がありますから、参考にしてください。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。