地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第40回 大橋敦夫さん:「隠れた「こなもの」王国・信州」

筆者:
2009年3月21日

信州の食と言えば、何と言ってもソバということになるでしょう。現代では、おいしいお米もたくさんとれるのですが、伝統的にはソバや小麦が主に作られてきました。それで、小麦粉を材料にした食品も、さまざまに工夫されてきています。

となれば、当然そこには、方言をあしらった商品も見いだされることになります。乾麺のうどんに「おざんざ」(長野県大町市・株式会社河昌)と命名された一品も、その一例です(写真参照)。

「おざんざ」
【「おざんざ」】

袋の裏面には、製法とともに、命名の由来と特長が次のように記されています。

その昔、信濃地方では「うどん」や「そば」など長い食べもののことを「ざざ」とか「おざんざ」(長長・おさおさ)と呼んでお客様のもてなしなどに好んで用いられていました。おざんざは塩を全く使わず納豆の酵素を用いて練り上げた独自の製法と特に吟味された原料でつくられております。麺のうまみ、のどごしのよさを心ゆくまでお楽しみください。

(確かに、他にはない食感で、ツルツルして喉越しのよい、おいしいうどんです。)

現在では、「ざざ」「おざんざ」の語は、あまり耳にしませんが、うどん・そうめん・ひやむぎなど、ソバのみならず、麺類は全般に当地域で好まれています。

粉を用いた食品では、「おやき」も忘れてはなりません。「おやき」とは、ナスなどの野菜を餡にした小麦粉のまんじゅうとも言うべきものです。知らない方には、「ナスの餃子」と説明したほうが、わかりやすいかもしれません。

もともとの作り方は、小麦粉を練って拳よりもやや小さくした位の固まりにし、その中にナスなどの餡を入れ、いろりの上で乾かし、さらにこれをいろりの灰の中に埋めて焼いたものです。現在は、蒸しあげて作るのが一般的です。とは言え、家庭ごと、お店ごとに、皮や餡に工夫をしており、それぞれに味わいがあります。お店は、専門店もあれば、和菓子店で扱っている場合もあります。

(以前、奈良の吉野に行った際、沿道の土産物店で「おやき」の看板を見つけました。懐かしい気がして近くに寄ってみると、大福餅を焼いたものが売られていて、びっくりした思い出があります。)

なお、長野商工会議所では、現在、経済産業省の補助金を受け、「信州おやき」を全国ブランドにする事業を進めています。

「おやき」のほかにも、「にらせんべい」や「こねつけ」などがあります。簡単に説明しますと、「にらせんべい」(「薄焼き」とも)は、韓国のチヂミとよく似ています。「こねつけ」は、ご飯に小麦粉を入れて練り餅にし、それを焼いて砂糖・味噌などで味をつけたものです。これらは、どちらかというと家庭料理です。

「たこ焼き」「お好み焼き」のような華やかさはありませんが、信州人も「こなもの」が大好きです。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。