« 日本語社会 のぞきキャラくり 第32回 「否定」の流儀 - 『枕草子日記的章段の研究』発刊に寄せて (1) »

耳の文化と目の文化(14)-視覚的な特性(7)

2009年 3月 30日 月曜日 筆者: 新田 春夫

クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(45)

名詞の大文字書きは名詞が文の中で情報を担う重要な要素であり、それを拾い読みするだけで文やテクストの大体の意味を読み取ることができるから、読み手にとってはたいへん便利である。しかし書き手にとっては何が名詞であるかは必ずしもはっきりしているわけではない。angst/Angstは「不安な」/「不安」という意味の形容詞または名詞であるが、その使い分けの原則は統語的な基準によって、文の中で動詞sein,werdenのなどの補語となったときは形容詞として小文字で書き、動詞や前置詞などの目的語になったときは名詞として大文字で書く:Mir ist angst./Ich habe Angst.「私は不安だ」。

しかし、recht/Recht「正しい、適切な」/「正当性」の場合は、Das ist mir ganz recht.「私はそれが好都合です」は形容詞として小文字で書くが、Du hast recht/Recht.「君の言うことは正しい」、Ich gebe dir recht/Recht.「私は君が正しいことを認める」の場合はどちらでもいいことになっている。これはrecht/Rechtはほんらいhabenの目的語であるから名詞であり、大文字で書くが、recht haben, recht gebenは全体として一つの意味をもった熟語であり、rechtはもはや名詞として独立しておらず、熟語の一部となっているという解釈である。

leid/Leidは「苦しい」/「苦しみ」という意味の形容詞または名詞であるが、Ich bin es leid.「私はそれが辛い」は形容詞として小文字で書く。前置詞の目的語となった場合は名詞であるから大文字で書くが、それが全体として副詞になった場合は1語に書き、小文字になる:Was habe ich ihm zu Leid[e] /zuleid[e] getan?「私が彼に何をしたというのか」。また、leidtunはほんらいLeid tun「苦しみを与える」という意味の句であり、Leidは動詞tunの目的語であるから名詞であるが、全体として「気の毒に思わせる」という意味の1語の分離動詞として認識されており、leidは小文字で書く:Er tut mir leid.「私は彼を気の毒に思う」。


【筆者プロフィール】
新田 春夫(にった・はるお)
武蔵大学教授
専門は言語学、ドイツ語学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員


【編集部から】
「耳の文化と目の文化」をまとめて読むにはこちらです。

2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

2009年 3月 30日