地域語の経済と社会 第42回
2009年 4月 4日 土曜日 筆者: 井上 史雄地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第42回「方言コマーシャルの系譜とアクセントのアッパーライン(ルビによる上線)」
「暖かい」の方言コマーシャル
方言の経済的な価値を考えるとしたら、テレビコマーシャルの方言活用が面白いテーマです。
古い話ですが、「チカレタビー」が1975(昭和50)年の流行語になりました。中外製薬の栄養剤グロンサンのコマーシャルで、日本各地の「疲れた」という方言をシリーズにしたのですが、秋田県花輪のが面白いと、評判になりました。収録のときに、地元の人に何度も演じてもらいましたがうまく行かなかったそうです。スタッフがふざけてまねて演じたのが取り上げられたもので、いわばにせものの方言でした。
本物の秋田弁なら「ツカレタベー」と聞こえるのですが、母音の違いを強調して「チカレタビー(B)」に近く発音しました。流行すると増殖現象が起こって、「チカレタシー(C)」も登場して、〈疲れが激しい〉意味で使われました。
ちょうどそのころが方言の復権の時期でした。1980年代にもときどき方言のコマーシャルがありました。その貴重な実例を、音源(
)でお聞かせしましょう。マークをクリックして、どうぞ。これは本や雑誌ではできない芸当です。
1986年ころの録音です。文字化すると次のような文章です。単語と発音に気を付けると、どこの方言かが分かります。その直前に各地の教育委員会に手紙を出して「暖かい」の全国地図を作りましたが、その実例が一本のコマーシャルで聞けました。家で寝ころんでも聞けるわけですから、いい時代になったものだと、感無量でした。
日本中のかたこりさん、ハリックスゴーゴーにあったかーい温感タイプが出ましたー。
あったかいがねー(愛知)
のごいすな (青森)
ぬくいわ (京都)
ぬっかー (鹿児島)ハリックスゴーゴーは血行をよくし、あったかーい貼りごこちで、肩こり腰痛などをやわらげます。(後略)
アクセントのアッパーライン(ルビによる上線)
ところで上の文字化では、アクセントの高いところをアッパーラインで示しました。これはインターネットならではの方法ですが、ワープロソフトでも示すことができる「秘法」があります。
昔は、縦書きでアクセントを示すには、高いところに傍線を引いていました。ところがこれを横書きにすると、ワープロの文書では下線になってしまいます。アクセントの高いところを示すには、従来の慣習どおり、上線(アッパーライン)を使いたいところです。
雑誌『日本語学』の連載で、〈ワープロソフトの「一太郎」ではアッパーラインを引けるが、ワープロソフトの「ワード」では引けない〉と書きました。その後NHK放送文化研究所のSさんからメールがあって、〈「ワード」でもルビを使えば上線を引ける〉と教わりました(明治書院『日本語学』2009年3月号、4月号〈ことばの散歩道〉130、131)。なるほどそのとおりでした。下に実例をあげましょう。
【「ワード2007」の振り仮名機能を使うには】

【「ワード2000」などの振り仮名機能を使うには】

ワープロソフトのルビ(振り仮名)機能を使うには、上のようにアッパーラインを付ける文字を指定したあと、「ワード2007」なら[ホーム]の
をクリックしてください。「ワード2000」「ワード2003」などでは[書式]から[拡張書式]のなかにある[ルビ]を選択してください。下のような画面が出ますから、1文字につき横線(ダッシュ「―」)2本をルビとして設定すると、ちゃんとアクセントのための上線になります。

共通語(東京)アクセントでは、どこから低くなるかが重要です。そして最初の1拍はふつう低く発音されます。しかし全国の方言が共通語と同じ規則性を持つわけではありませんから、実際にどこが高く発音されるかを、線で忠実に示すほうがいいでしょう。少し高いとか大変高いとかを、点線や太線を使って区別することもできます。
「秘法」をインターネットで公開したら秘法でなくなりますが、お役には立ちます。楽しいだけでなく実用として役立つ文を、これからも心掛けます。
ワードによるアッパーラインの引き方が、以上の説明で分からなかった方は、まずヘルプ機能を活用して、ルビ(振り仮名)の付け方を、練習してください。そのあと、ルビ(振り仮名)の文字の代わりに線を入れてみてください。
なお今回の稿については、三省堂編集部の荻野(真友子)さんに大いにご助力をいただきました。御礼申し上げます。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『その敬語では恥をかく!』(PHP新書)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)、監修に『方言と地図』(フレーベル館、最新刊)などがある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
2009年 4月 4日







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