『三省堂国語辞典』のすすめ その62
2009年 4月 8日 水曜日 筆者: 飯間 浩明「プリン体」の説明、なかなかアマくない。

【よく誤解されますが…】
前回(その61)の文章で、国語辞書の説明のしかたは、百科事典とは異なるという話をしました。「大根」という野菜は、百科事典的に言えば、形も色もさまざまです。でも、『三省堂国語辞典』では、「白く太くて長い」と説明します。「大根」が、ふだんの生活の中で、どんな意味に用いられるかを示すことが必要だからです。
しかし、と思う人があるかもしれません。「大根」ならともかく、むずかしい学術用語を説明するときは、国語辞書の記述も、百科事典と同じになるのではないでしょうか?
ところが、必ずしもそうではないのです。そのことを、「プリン体」ということばを例にお話ししましょう。
「プリン体」は、お菓子のプリンのようにぷるぷるした物質のこと――と思っている人もいるかもしれませんが、それは誤りです。百科事典や医学事典によれば、「ピリミジン環とイミダゾール環の縮合環をもつ塩基性物質」です。化学的には、まずこれが基本的な記述だろうと思います。

【プリン体カットの発泡酒】
一方、「プリン体」ということばが一般に使われる場合、上のような知識は問題にされません。たとえば、発泡酒の広告の中では、次のように使われています。
〈〔この発泡酒は〕プリン体をカットしていて体をケアしながら楽しめるのが素晴らしい。〉(『週刊文春』2006.10.5 p.14)
つまり、こういうことです。プリン体は、生物の細胞の中にある物質で、ビールなどに多く含まれています。体内では尿酸に変わります。尿酸値が高くなると、高尿酸血症や痛風の原因になります。「プリン体」は、「とりすぎると痛風になるもの」という部分で、私たちの生活に関わっています。百科事典では、これらの点に言及しないものもあります。

【プリン体を多く含む食品】
『三国』の第六版では、この「プリン体」を新規項目として立てました。ふだんの生活の中で、どんな場合に問題にされるかを踏まえ、次のように記しました。
〈細胞(サイボウ)中の核酸(カクサン)を構成する成分。体内で分解されると尿酸(ニョウサン)になる。⇒:尿酸。〉
同時に、「尿酸」の項目では、病気との関係について説明を充実させました。「プリン体」とあわせて読んでみてください。
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筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。







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