『三省堂国語辞典』のすすめ その63
2009年 4月 15日 水曜日 筆者: 飯間 浩明『三国』は、シンプルな似顔絵だと思う。

【シンプルな似顔絵】(筆者描く)
電子辞書が普及し、いくつもの辞典・事典類を一度にまとめて検索(くし刺し検索)することができる時代になりました。テレビのニュースで聞いたことばなら時事用語辞典、ことばの使い分けを知りたいときは類語辞典というふうに、目的に応じた情報源から情報を引き出すことができます。便利に使っている人も多いでしょう。
そうした数ある情報源のうち、国語辞書は、いろいろな情報がつまってはいるものの、ある特定の目的では使いにくいという意見もあります。なにしろ、ひとつひとつの説明が最小限の長さしかありません。電子辞書に収録された専門の辞典・事典類とは、くわしさの点で比較になりません。
そこで、「国語辞書の第一の役割は、意味を説明したりすることではなく、日本語を一覧表にして示すことだ」と言う人もいます。たしかに、ひとつの興味深い見方です。でも、もし、国語辞書のセールスポイントが「日本語の一覧表」にすぎないのなら、作り手が苦労してことばの説明を考えることは、あまり意味がないことになります。

【細密な肖像画】(筆者描く)
国語辞書に「日本語の一覧表」以上の意味をもたせるため、説明をより詳細にするという行き方もあります。ところが、われらが『三省堂国語辞典』は、むしろ簡潔な説明を目指しています。有用性に逆行するかのような道を、なぜ、あえて選ぶのでしょうか。
作り手の一人として、私なりの答えを言えば、「くわしい」イコール「役に立つ」ではないからです。むしろ、簡潔な一行が、そのことばをうまく説明することがあります。
私は、国語辞書の説明を、似顔絵にたとえてみることがよくあります。人の顔を写実的に描いた肖像画では、その人の目鼻立ちは細部までわかりますが、特徴はかえってつかみにくくなります。一方、シンプルな似顔絵では、細密さはなくなりますが、特徴はかえって強調され、一目でわかるようになります。『三国』が昔から追求しているものは、この「似顔絵の分かりやすさ」だと、私は思います。

【こんな描き方も】(筆者描く)
もっとも、似顔絵は実物をゆがめて描きますが、辞書の説明はゆがんでいては困ります。したがって、似顔絵と『三国』の説明は完全に同じではありませんが、たとえとしては有効でしょう。似顔絵が「要するにその人はどういう人か」を表現するのと同じく、『三国』は「要するにそのことばはどういうことばか」を簡潔に説明することを目指しています。
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◆飯間先生の記事はここにも⇒「三省堂WebDictionary」ことばパティオ第8回「「串刺し」に堪える語釈でなければならない」
筆者プロフィール
飯間浩明(いいま・ひろあき)
早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)
【編集部から】
生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され、「【サンコク】メディアでの紹介」の記事にある通り、各方面で取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。







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