インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生2
2009年 4月 24日 金曜日 筆者: ogm【編集部から】
先週に引き続き立命館小学校校長・深谷圭助先生のインタビューを掲載します。
このインタビューの経緯は以下をご覧ください。
⇒インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生《前編》
《前編》の目次
■「辞書引き学習」を始めたきっかけ
■辞書を自分のものにしていく子どもたち
■付箋を活用するメリット
■1冊目の辞書が付箋でいっぱいになったら…
辞書は知への扉 さまざまな世界への入り口を自分の手もとに――
深谷圭助先生インタビュー《後編》
辞書や資料はさまざまなものを
――立命館小学校では、子どもたちがいろいろな国語辞典を使っていました。また、「辞書引き学習体験会」の際、先生は、学校と家庭で別の辞書を使うことを提案なさっていましたが、複数の辞典をすすめる理由はどんなところにあるのでしょうか。
深谷先生 いろいろな辞書に触れることで、同じ「国語辞典」という名前がついていても、ある一つのことばを調べたときにそれぞれ書いてあることが違うということに気づきます。一つのことばでも、いろいろな意味の書き方があると知ることは、「ものの見方や考え方にはさまざまある」ということに気づくきっかけとなります。
ご家庭では、たとえば、お父さんお母さんもご自分の辞書を持ち、お子さんが辞書を引くときに、いっしょになって同じことばを引いて、それぞれの記述が違うことを確かめ合うのもいいと思います。
そのうちに、国語辞書を手がかりとして、自分の知りたいことを見つけるためにはどんなものが必要か、子ども自身が模索を始めます。そうして、友だちの辞書がうらやましくなったり、もっと大きな辞書をと思ったり、図鑑など他の資料に触れるようになったり……と、自らで解決方法を考えるようになります。
――そのように新たな資料に触れたとき、子どもたちはどのように接していきますか。また同じように付箋を立てていくのでしょうか。
深谷先生 そのころになると、子ども自身が工夫するようになり、同じように付箋を付ける子もいれば、引きやすいようにインデックスを付ける子もいます。あえて付箋を立てることを細かく指導しているわけではないので、子どもたちには工夫のしがいがあり、付箋を付けるにしても色を分けてみたり、上に付けたり横に付けたりと、それぞれのオリジナルの辞書ができあがります。この「工夫できる余地」というのも大切なことだと思います。そして、そうやって新しい資料も自分のものとして使いこなすようになります。また、そこから自分の知らない世界があるということを知り、興味を深め、探求していくようになります。
さまざまな知への入り口となる辞書
――その様子を見て、先生はどのように感じられたのでしょうか。
深谷先生 知っていることばをまず探す、国語辞書が入り口となり、知らないものがあるということを知る、自分が何に興味があるかを知るきっかけとなる、と。
――辞書引き学習の最大の意義とはそこにあると。
深谷先生 辞書引き学習というと限られたイメージをもたれている方もいらっしゃるのかもしれませんが、辞書のなかには非常にいろいろな分野の知があります。辞書引きによって、自分が何に興味をもっているか、自分が何をしたいのか、気づく重要なきっかけがそこにあり、そしてそれは、人に与えられたものでなく、自ら切り拓いていく知への窓口だと思うのです。
使い古された表現ではありますが、「自分探しの旅」への、33,000語収録の辞書だったら33,000の扉がある。小学1年生から、自分の好きな自分の扉を自分の力で見つけ、自由に出入りすることができる。一冊の辞書を持つことで、さまざまな世界への入り口を自分の手もとに持つことができると思います。
五十音順という、ある意味で整理された情報を自分の生活や体験につなげることができる。ことばの学習はそうあるべきだと思うんですね。
自らの道を切り拓いていく子どもたちに
――だからこそ、自分の辞書を持つということが大切であるということですね。先生の教育を受けて、子どもたちは自分で自分の道を切り拓いていっているのではないかと思いますが、愛知県でこの学習法を始めたころのお子さんたちは、成長してどのように育っていらっしゃるのでしょうか。
深谷先生 小学1年生のときに担任した子どもたちを、中学3年になったときに再び担任するという機会があったんですね。クラスの係で、ある子は社会科係になって、自分たちで取材して新聞にまとめるという活動をしていたんです。
その新聞をつくる際にですね、そのとき社会科は公民をやっているのですけど、時事問題と引きつけて、自分で取材したり、新聞に出てくるキーワードを辞事典で調べたり、実際にマスコミや中央省庁に電話をして尋ねたり、そういう自分たちの手で調べ、取材し、要点をまとめて、わかりやすい情報の発信のしかたをするということを、一年間続けていたんですね。小学1年で辞書引きをしているから、調べることは全く苦にならない。中3にもなって受験以外の係活動に熱心になっていたので、おうちの方はもしかしたら心配していたのかもしれませんが(笑)、学習そのものが生活になっているその様子は、辞書引きがあってこそなのだと思いました。
自ら知識を求め、その知識が連鎖していく。彼・彼女らにとっては、たとえばテストでいい点をとるとか、難易度が高い高校に入るとかといったこととは別の価値観で、学習そのものが、学習という意識がなく実現されている、むしろ自分たちにとって大切にしたいことなのだと確信しました。
――辞書引き学習の経験があるかないかで、なにか、差のようなものは感じましたか。
深谷先生 差というわけではありませんが、辞書引き学習を通して、自分の持っている知識や概念を吟味・咀嚼することで、情報に対しての接し方が変わってくるように思います。普通に生活をしていると自覚する機会があまりないことですが、知っていることばこそ引いてみる、そしてそれがしっくりこない、という経験を通じて、自分の知っている情報に問題があるのか、資料の側に問題があるのか、考えるきっかけとなる。世の中に流布されている情報というのが、実は、とくに意図的でなくても操作されている情報であるということに気づきます。情報に対する判断の誤りを振り返るきっかけともなり、情報の取捨選択ができるようになる。これはまさに情報リテラシーであり、クリティカルシンキングにつながると思うんですね。
子どものころは、まず、紙の辞書を
――情報の取捨選択というと、現在では、調べる媒体は辞書でも紙、インターネット、電子辞書があり、また辞書に似た役割として使われているものもあります。教育の観点から、このようなものをどうとらえていらっしゃいますか。
深谷先生 子どものころは、まず、紙の辞書を引くことに意味があると思います。小さいときに紙の辞書を用いて、ページをめくって調べるということをきちんとおこなう。紙の辞書を引くと、その過程でいろいろなことばに触れることができる。やはりそのプロセスが大事だと思うんです。たくさんのことばと出会うことができる。また五十音の順を意識することも重要です。そうして、ことばの感覚を磨いていくことができる。
“使い込んだ電子辞書”というものはあまり聞きませんが、紙の辞書は使い込むことができる。電子メディア、たとえばフロッピーディスクのデータが1000年後に使えるかは確信もてませんよね。何千年もの間、紙はずっと残ってきたすぐれたメディアであり、そこには安心感があり、豊かさがある。もう少し紙の辞書を引くことを大切にしたほうがいいと思います。
また、インターネット上にはいろんな人が書き込み、さまざまな立場の人が参加して辞書のようなものをつくっているものもありますが、そういうものを通じてまた、ことばの意味や定義は人によってずいぶん違うということを知ることもできます。こういうものがあると、紙の辞書としては、どういうスタンスでつくっているか、というところが問われてくると思います。
辞書づくりというのは非常に重要なことで、いろいろな辞書があることもやはり大切ですよね。日本にはたくさんの辞書が出版されていて、子ども向けの辞書も豊富にあります。そのことは誇るべきことであって、もっともっと使うようにさせたいと思います。
大人にとっても辞書は良きパートナー
――ありがとうございます。それでは、最後に保護者の方や一般の方にメッセージをいただきたいと思います。まず保護者の方へお願いします。
深谷先生 大人が辞書をどのようにとらえているか、というのはすごく大きな問題だと思いますね。わからないことばを調べるというのは辞書の機能の一つであると思って、もっと豊かに使ってほしいと思います。
たとえば、「まだ五十音もわからないのに辞書を与えるなんて」とは言わないで、むしろ辞書をつかって五十音の感覚を身につけたらどうか、というふうに、辞書を使ういろいろなアプローチがあっていいと思うんですね。子どもが何かできるようになってから、というのではなくて、そういうことを許容できるような大人のスタンスが必要だと思います。
ぜひ、大人がやわらかくなってください。
――一般の方へお願いします。
深谷先生 いろいろ習い事をしたり資格をとったりということをなさる方はいると思うのですが、もっとも安くて、半永久的にあなたの先生であるのが辞書です。辞書は時と場所を選びません。いまさら聞けないけれどよくわからないことばのようなものも気軽に聞くことができる、子どもよりも、むしろ学校を出た人にとって、生涯の先生として、また気兼ねなく相談できる良きパートナーとして最適だと思います。手軽にこれだけ多くの辞書に触れることができ、安く手に入れられるこの国に生まれたことを感謝するというか、そういう国でなくてはと思います。
――貴重なお話をありがとうございました。では、最後になりますが、先生にとって理想の辞書とはどのような辞書でしょうか。
深谷先生 すべての辞書の基本は、辞書の王様は、国語辞典だと思うんですね。調べたことがすべてそこに書いてあるというのもつまらない。書かれていることにある一定の制限があり、ちょうどよい物足りなさがそこにあります。
辞書から何か次の知につながるきっかけを得られる、まわりみちをたくさんして戻ってくる辞書が理想ですね。
【プロフィール】
深谷圭助(ふかや・けいすけ)
1965年生まれ。愛知教育大学卒業。名古屋大学大学院博士後期課程修了。博士(教育学)。
1989年愛知県刈谷市立亀城小学校に着任。国語辞典を学校生活のさまざまな場面で取り入れることで、児童が主体的に学ぶ指導法(辞書引き学習)を展開。この実践を『小学校1年で国語辞典を使えるようにする30の方法』(明治図書)にまとめ、教育界の注目の的に。
2005年立命館小学校の設置メンバーとなり、06年4月から同校教頭、08年4月には校長に就任。辞書引き学習の普及にと、校内だけでなく全国各地を飛び回りながら、学習法のさらなる向上のため研究活動に没頭する毎日。
おもな著書に『7歳から「辞書」を引いて頭をきたえる』(すばる舎)、『辞典・資料がよくわかる事典―読んでおもしろい もっと楽しくなる調べ方のコツ』(PHP研究所)、「辞書引き学習自学ドリル」シリーズ(MCプレス)などがある。
* * * インタビュー「辞書引き学習」深谷圭助先生 おわり * * *
【編集部からのお知らせ】
「辞書引き学習」基本のステップは五つ! 今すぐ始めたい方はこちらをご覧ください。
⇒「辞書引き学習」とは(監修:深谷圭助)
「やってみよう!」 「辞書引き学習」への取り組み―先生方・保護者の方へ―
最新のイベント情報は右にあります「おすすめ記事」からご覧ください。今後のイベント情報、また、これまでの報告など関連情報は以下からもご覧いただけます。
⇒辞書引き学習についての情報
三省堂では、書店さんといっしょに「辞書引き学習」の体験会を考えました。活動のもようは以下をご覧くださいませ。
⇒深谷圭助先生の「辞書引き学習体験会」のご紹介
編集部で立命館小へうかがいました。以下に訪問記を掲載しています。
⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記1
⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記2
★深谷先生から推薦をいただいております
例解小学国語辞典 第四版
編者:田近洵一
B6判 1,216ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13821-3
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13822-0
例解小学漢字辞典 第三版 新装版
編者:林 四郎(主幹)・大村はま
B6判 1,152ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13817-6
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13818-3
★立命館小学校で使われています
クラウン学習国語百科辞典
監修:金田一春彦 編者:三省堂編修所
A5判 1,200ページ 3,990(本体3,800)円
ISBN 978-4-385-15048-2
2009年 4月 24日







![『新明解国語辞典 第七版[机上版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の机上版。判型は並判より大きいA5判で、さらに文字が大きく見やすい。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[机上版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kijo.jpg)
![『新明解国語辞典 第七版[小型版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の小型版。並判より一回り小さいA6変型判で、携帯にも便利。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[小型版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kogata.jpg)
![『新明解国語辞典 第七版[革装版]』7年ぶりに改訂『新明解国語辞典』の革装版。丈夫で使うほどに手になじむ。判型は並版・特装版と同じB6判。2色刷。紙面内容は並版と同一。 『新明解国語辞典 第七版[革装版]』](http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp-images/smk_kawaso.jpg)














































































































































2007年









