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地域語の経済と社会 第46回

2009年 5月 2日 土曜日 筆者: 田中 宣廣

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第46回「『かきくけこ』―5文字で完結する観光の方言メッセージ―」

 ここ数回(第31回第32回第36回第37回第39回第41回,他)で観光の方言メッセージについてお話ししています。今回もこの話題です。

【写真1】
【写真1】「かきくけこ?」
(クリックで「ふるさとCM大賞」のページへ)

 今回取り上げるのは,「かきくけこ」【写真1】です。

 このたった5文字が,観光の方言メッセージになっています。

 発信元は岩手県山田町で,目的は観光客の「誘致」です。

 「かきくけこ」は,昨年からテレビCMで放映され,2008年度「ふるさとCM大賞」に輝きました。岩手朝日テレビウェブサイト内『ふるさとCM大賞』「2008年度受賞作品」のページ【写真1】(http://www.iat.co.jp/FurusatoCM/2008prize.html)から『実物』を見ることができます。年配の人たちが,「カキー,クーケーコー」と一部の音を延ばして発音して女の子(みさきちゃん)を呼びます。

【写真2】
【写真2】「カキまつり」のポスターに採用
【写真3】
【写真3】「カキまつり」のポスター(全体)
(クリックで拡大)

 その「かきくけこ」の意味は次のとおりです。

 「かき」は,牡蠣です。山田町は,岩手県の太平洋沿岸地帯の中部に位置し,牡蠣の養殖が盛んです。牡蠣や帆立の養殖棚で一面が覆われた山田湾は,なかなかに壮観です。

 「く」=「クー」は,(牡蠣を)「食う」ですね。

 「け」=「ケー」は,理由の「から」です。山田町や宮古市,久慈市など岩手県の太平洋沿岸部で使われる語法です。正確な発音は[ケァー]で,普通の[ケー]よりも広く口を開けます。

 「こ」=「コー」は,「来い」です。東北地方の太平洋側(岩手県・宮城県・福島県)で使われます。例えば,「コッツァコー」(こっちに来い)などと使います。

【写真4】
【写真4】山田町の基本型メッセージ(A)
(クリックで拡大)
【写真5】
【写真5】山田町の基本型メッセージ(B)
(クリックで拡大)

 以上より「かきくけこ」は,「(今から)牡蠣を食べるから,(あなたも一緒に食べに)来い」であることが分かります。

 CMでも,牡蠣を焼いている場面に「カキ食うけぇ来お(カキを食べるからおいで)」との解説も併せて入ります。

 また,つい最近も,「三陸山田かき祭り」のポスター【写真2】【写真3】(全体)に採用されています。

 「かきくけこ」は,私の担当回(第31回第36回第41回)で説明している,観光の方言メッセージの構成方式つまり『型』では,『応用型』です。

 なお,山田町は『基本型』もきちんと押さえてあります。2例紹介します~【写真4】【写真5】。いずれも,JR山田線「陸中山田」駅に掲示されている歓迎メッセージです。

 おめぁさんがど,いつど,やまださ きなさんせ。
 (みなさん,一度,山田へ いらしてください)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』田中宣廣(たなか・のぶひろ)
 岩手県立大学 宮古短期大学部 准教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,諸方言の形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載。

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2009年 5月 2日