人名用漢字の新字旧字

人名用漢字の新字旧字・特別編 (第7回)

筆者:
2009年5月27日

人名用漢字の新字旧字の「曽」「祷」の回を読んだ方々から、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけたいのだが、どうしたらいいのか、という相談を受けました。それがどれだけ大変なことかを知っていただくためにも、あえて逆説的に、「人名用漢字以外の漢字を子供の名づけに使う方法」を、全10回連載で書き記すことにいたします。

家庭裁判所への差し戻しとなった場合

高等裁判所が原審判を取り消した場合、家庭裁判所に差し戻すのが原則です。この場合は、連載の第5回に戻って、またやりなおし、ということになります。ただ、市町村長の処分に対する不服申立審判に対する抗告審では、差し戻しはめったにおこなわれず、高等裁判所が新たな決定をくだす「自判」が多いようです。

抗告審に勝った場合

あなたが相手方で高等裁判所の決定が抗告棄却だった場合、あるいは、あなたが抗告人で高等裁判所の決定が原審判取り消し自判だった場合、あなたの勝ちです。高等裁判所は、問題の漢字を「常用平易」だと認めたのです。決定書謄本と確定証明書の交付を、高等裁判所に申請しましょう。決定書謄本と確定証明書が送られてきたら、最初に不受理だった出生届と一緒に、市役所(区役所・町役場・村役場)に提出します。あなたが相手方で抗告棄却だった場合は、家庭裁判所の審判書謄本も持っていきます。他にいくつか書類を書かなければならないかもしれませんし、実際の手続に1~2週間かかってしまうこともあります。これで、戸籍上に、本当の子供の名が記載されることになります。

ただ、市町村長が最高裁判所への許可抗告を申立てた場合は、少々やっかいなことになります。この場合でも、たいてい高等裁判所は確定証明書を交付してくれるので、市役所の手続を進めることはできますが、高等裁判所の決定が最高裁判所でくつがえされる可能性が残っているのです。許可抗告審をどうするか、については、次回(第8回)にいたしましょう。

抗告審に敗けた場合

あなたが抗告人で高等裁判所の決定が抗告棄却だった場合、あるいは、あなたが相手方で高等裁判所の決定が原審判取り消し自判だった場合、あなたの敗けです。高等裁判所は、問題の漢字を「常用平易」だとは認めなかったのです。最高裁判所への許可抗告を申立てる、という方法も残されていますが、許可抗告は、高等裁判所の決定が、最高裁判所の過去の判例と、法律解釈上、矛盾していることを申立てなければならないので、あなたが法律の専門家でもない限り、まず無理でしょう。

もし、子供の名を「名未定」のままでほったらかしてあるのなら、すぐに市役所に行って、追完届を提出します。ただ、今後もまだ闘っていく気があるのなら、追完届に書く子供の名は、ひらがな(あるいはカタカナ)にすべきです。今後もまだ闘っていく気があるのなら…、そう、闘いは、まだ終わったわけではありません。時間を十分にかければ、本当の子供の名を戸籍に載せるチャンスは、まだ残されています。今後、どう闘っていくのか。それは、次々回(第9回)書くことにいたします。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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