地域語の経済と社会 第50回
2009年 5月 30日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第50回「信州弁をあしらった紙袋」
しなの鉄道の屋代(やしろ)駅に降り立ち、駅を背にして歩を進めると、きれいな商店が軒を連ねています。その一角を占める「屋代西沢書店」でお買い物をすると、ほのぼのとした味わいを持つ版画と方言が印刷されたオリジナルの紙袋【写真1】に商品を入れてもらえます。
版画に添えられた方言を、あらためて見てみましょう。
「ぎんだれ猫・へっつい猫」=[かまどのそばをうろうろしている寒がり屋のネコ 目やにを出したうすぎたないネコ]
「本屋で本買わず」=[本屋で本を買おう]
「月みにいかず 花みにいかず」=[月を見に行こう、花を見に行こう]
「づくなし づくだせ」=[無精者め やる気を出せ]
「おらやだ われいけ」=[俺はいやだ お前行け]
「もうらしこんだし」=[かわいそうなことだなあ]
「おじょここくな」=[生意気なことを言うな]
版画の作者は、地元・千曲(ちくま)市出身の「板画家」森貘郎(もり・ばくろう)氏です。地元の方言をこよなく愛する森氏には、『オラホの憲法9条』(川辺書林〈長野市〉 2005.5)という作品もあります。ページをめくると作品に添えられている条文は、
この国の人間(もん)は、これっきし
なにが あらずが よその国と 戦争
やったり よその国の 人間(もん)を
殺したり しねだしど。
屋代西沢書店の明るい店内を見回すと、森氏の著作はもちろん、郷土出版物が充実していることがわかります。『ちょうま』『屋代』といった郷土雑誌のバックナンバーも手に取って見ることができ、郷土を愛する好学の風土がしのばれます。今回ご紹介の紙袋は、そうした文化活動を支援するお店ならではのオリジナル袋と言えるでしょう。
惜しいことには、在庫が少なくなっているとのこと(貴重な一枚を、今回いただいてしまいました)。
森氏のファンと信州弁の愛好者は、屋代西沢書店へ急ぎましょう。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
2009年 5月 30日









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