人名用漢字の新字旧字

人名用漢字の新字旧字・特別編 (第9回)

筆者:
2009年6月1日

人名用漢字の新字旧字の「曽」「祷」の回を読んだ方々から、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけたいのだが、どうしたらいいのか、という相談を受けました。それがどれだけ大変なことかを知っていただくためにも、あえて逆説的に、「人名用漢字以外の漢字を子供の名づけに使う方法」を、全10回連載で書き記すことにいたします。

本当の子供の名を使い続ける

前々回(第7回)、たとえ抗告審で敗けたとしても、本当の子供の名を戸籍に載せるチャンスは残されています、と書きました。では、どうすればいいのでしょう。簡単なことです。第1回でも書いたとおり、本当の子供の名を使い続けるのです。子供の名にその漢字を使いたいのなら、親だけでなく、まわりの人たちにも本当の名を認めてもらう必要があるのです。

まずは、健康保険証の被扶養者欄。本当の子供の名を書いてもらえるよう、頑張ってみましょう。うまくいったら、コピーを取って保存しておきましょう。ダメだったからといって、怒ったりメゲたりせず、本当の子供の名を淡々と広めていきましょう。病院や薬局の領収証にも、保育園や幼稚園の名簿にも、本当の子供の名を書いてもらうよう、頼んでみましょう。卒園証書にも書いてもらえるよう、園長先生にお願いしてみましょう。そして、うまくいったものだけ、コピーを取って保存しておきましょう。

子供が小学生になったら、氏名を漢字でどう書くか、子供にちゃんと教えましょう。その漢字は、小学校では習わない漢字ですが、でも子供にとっては大事な漢字なのです。通信簿にも本当の名を書いてもらうよう、先生にも頼みましょう。ただ、低学年だと、そもそも全員ひらがなの通信簿、ということも有り得ますが。卒業証書や卒業アルバムも、本当の名にしてほしいですよね。校長先生に頼んでみましょう。

中学校のクラス名簿なども、本当の名で書いてもらえるよう、子供本人にも頼ませましょう。そして、本人が15歳になった時が、チャンスです。

家庭裁判所に名の変更許可を申立てる

子供本人が15歳になったら、住所地を管轄する家庭裁判所に出向かせましょう。本当の子供の名が書かれた母子手帳・領収証・卒園証書・通信簿・卒業アルバム・クラス名簿などのコピーと、戸籍謄本、そしてハンコを持たせて下さい。家庭裁判所では、家事審判に関する手続案内窓口に行かせて、名の変更許可を申立てるにはどう手続したらいいのか、子供本人に相談させて下さい。変更理由は、本当の名を生まれて以来ずっと使い続けてきたけど、戸籍には違う名が書かれていて不便だから、です。

この時、子供本人が家庭裁判所で書くのは、名の変更許可申立書です。『申立人』は子供本人です。『申立ての趣旨』には、「申立人の名(××××)を(○○)と変更することの許可を求める。」と書きます。「××××」は戸籍上の名、「○○」は本当の名です。『申立ての実情』は「通称として永年使用した。」で、使用を始めた時期には生年月日を書きます。母子手帳のコピーが、その証拠です。『名の変更を必要とする具体的な事情』には、本人が中学生であること、戸籍上の名は××××だが本当の名は○○でずっと○○を使ってきたこと、まわりの人たちもみんな○○だと思っていること、今後の進学や就職を考えると戸籍名では不便なので○○に名を変更したいこと、などを書きます。手続は全て、子供本人がおこないます。あなたの出る幕はありません。

さて、次回はいよいよ最終回です。名の変更許可申立てに対して、家庭裁判所はどういう審判をくだすのでしょう。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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