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明解PISA大事典:PISAの発問と指導、評価「PISAの悲劇」

2009年 7月 10日 金曜日 筆者: 北川 達夫

第10回 PISAの悲劇

 PISAは嫌われている。けっこう嫌われている。

 理由はさまざま。だが、PISAというと「世界はこうなっている。だから日本もこうすべきだ」という論法が見え隠れするあたりが大きいように思う。

 この論法は日本政府の常套手段だった。正確には外務省の常套手段だった。長くて重たい伝統をもった日本はそうそう簡単には変わらない。だから外圧を使って変えようというのである。これは日本人の同調性を利用した部分もある。日本人の習性からして、「みんながそうしていますよ。そうしていないのは日本人だけですよ」と言われると不安でたまらなくなるからだ。

 だが、最近は外圧も通用しなくなりつつある。それどころか「ここは日本だ」という感情的な反発を招きやすい。PISAに対しても同様の反発がいまだに消えない。

 PISAというと「国際的に通用する能力」というような文脈で語られることが多いが、これは得策ではないと思う。どこの国の人にしても基本的には国内的に生きているのであって、国際的に生きているのではない。国際的に通用する能力など必要ないのである。だから、PISAで求められている能力についても、その能力が今後は国内的に必要になることを力説すべきなのだ(*)

 PISAがいきなり測定から始まったことも不幸であった。本来ならば、まず指導があって、それから測定というのがスジだろう。誰だって習っていないことについて、いきなりテストをやられたら文句のひとつも言いたくなる。子どもならば確実に「まだ習ってませ~ん」と文句を言う。

 PISAがいきなり測定から始まったにもかかわらず、いわゆる「PISA型読解力」なるものの指導が奨励されたことも不幸であった。熱心な先生たちは、公開されたPISAのサンプル問題から、その背景にある指導法を推理しなければならなくなったのである。(さらにいえば、公開されたサンプル問題が欧米型の読解問題としては出来の悪いものばかりだったことも不幸であった。もしかすると出来が悪かったからこそ、サンプルとして外部に放出されてしまったのかもしれない⇒第14回「PISAサンプル問題を評価する」へ)

 当然のことながら、指導のための発問と測定のための発問は違う。また、指導は発問だけで成り立っているわけでもない。PISAのサンプル問題から指導法を推理するのは至難のわざであったに違いない。ほとんど不可能であったに違いない。

 この連載でも繰り返し述べてきたように、PISAの読解力は欧米型の読解教育を基盤にしている。だから、その指導法を知りたければ、サンプル問題を参考にするよりも、むしろ欧米型の指導法を参考にしたほうが早道だろう。もちろん日本と欧米とは違うのだから、欧米の指導法をそのまま取り入れても仕方がない。あくまでも参考にするのである。

 前回まで3回にわたってPISAの発問について説明してきたが(情報の取り出し解釈熟考と評価)、あれも基本的には測定のための発問についての説明であった。今後は具体的な指導法について、欧米での指導事例などを紹介しつつ説明していくことにしようと思う。

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(*)このあたりについて詳しくは拙著『ニッポンには対話がない』(平田オリザ氏との共著/三省堂 2008年)を参照されたい。

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【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
『週刊 東洋経済』にて「わかりあえない時代の『対話力』入門」連載中。

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【編集部から】
学習指導要領の改訂に大きく影響したPISAってなに?
PISA型読解力ってどんな力なの?
言語力、言語活動の重視って? これまでとどう違う?
現代の教育観は変わってきたのか。変わってきたとしたら、そこにどんな経緯があるのか。
国際的に活躍する教材作家である北川達夫先生がやさしく解説する連載「明解PISA大事典」。金曜日に掲載しています。

2009年 7月 10日