地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第57回 井上史雄さん:究極の方言みやげ保存法

筆者:
2009年7月18日

大阪でミニカステラまんじゅうを見つけました。第52回でふれた京都のものと、大きさが似ているし、1個1個に焼印で記してある方言があいさつことばなのも似ています。文字は「おおきに」「まいど」「せやけど」「すんまへん」で【写真1】、包み紙には「おおきに」と「まいど」しか書いてないので【写真2】、買って、写真を撮って記録に残しました。実物は結局食べてしまいました。味も京都のと似ていました。

(画像はクリックで拡大します)

【写真1】
【写真1】
【写真1 大阪弁カステラ(中身)】(下は一部の拡大)
【写真2】 【写真2】
【写真2 大阪弁カステラ(箱)】(右は一部の拡大)

大阪では、もっと大きいカステラまんじゅうも見つけました。包み紙には13個の表現が書いてありますが【写真3】、いずれも会話で使われる言い回しです。しかし実物の焼印の文字は細かくて【写真4】、字がつぶれています。右の4行は「さよか」「どないやねん」「たのむわー」「まけてんか」です。左の3行はデジカメ写真を拡大して、「どやろー」「もうかりまっかー」「ぼちぼちでんな」と読み取りました。いずれも店でのやりとりの言い方ですが、包み紙とは違うことばですから、実物の保存がぜひ必要です。しかし写真に撮ったあと、これが究極の方言みやげ保存法なのだと自分に言い聞かせながら、お腹に収めました。何しろ体細胞の一部に変化させるわけですから。

【写真3】 【写真3】
【写真3 大阪弁カステラまんじゅう(箱)】
(右は一部の拡大)
【写真4】
【写真4 大阪弁カステラまんじゅう(中身)】

第52回でふれた京都のミニカステラも合わせて、三つのお菓子の方言がいずれもあいさつなどの表現なのは、意味がありそうです。京都・大阪の方言みやげには、「おおきに」や「まいど」はじめ、人とのやりとりで使われるあいさつことばがよく表れます。しかしほかの地域の方言みやげでは、むしろモノや動作や感じを表わすことばが、多いようです。京都の人あしらい、大阪のボケとツッコミなど、会話の進め方に気を使うのが、関西人です。さあ、方言みやげに取り上げられることばに、全国的な違いはあるでしょうか。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。