日本語社会 のぞきキャラくり 第48回 親を「叱りつける」ことができるか?
2009年 7月 19日 日曜日 筆者: 定延 利之親を「叱りつける」ことができるか?
ことばとキャラクタとの結びつき方について第43回以来述べてきたが、今回の補足2点をもって一区切りとしたい。(各回へのリンク⇒第43回・第44回・第45回・第46回・第47回)
補足の第1点として述べておきたいのは、ここでは3つの結びつき方を一つ一つ取り上げたけれども、これら3つの結びつき方どうしが重なることも珍しくはない、むしろそれがふつうだということである。
たとえば冷徹無比な世界的狙撃者(スナイパー)・ゴルゴ13は、殺人依頼者に対して「つまり狙撃の標的は幼児性が強い男だな」とは言えても、「つまり狙撃の標的は『坊っちゃん』だな」とは言えない。また、「奴ならそこで少し笑うはずだ」とは言えても「奴ならそこでニタリとほくそ笑むはずだ」とは言えない。ゴルゴ13の口から「坊っちゃん」「ニタリとほくそ笑む」などという世俗的なことばが漏れ出た瞬間、ゴルゴ13のクールで超俗的なキャラクタがこわれてしまう。
つまり「坊っちゃん」ということばは、キャラクタのラベルであると同時に役割語でもある。同様に「ニタリとほくそ笑む」ということばは、キャラクタ動作の表現であると同時に役割語でもある。そもそもすべてのことばは濃淡の差こそあれ役割語なのだから(第28回参照)、これは当然の理屈だろう。
以上、ことばとキャラクタとの結びつき方として3つを見てきたわけだが、ことばとキャラクタとの結びつきは、実はこれら3つに限られない可能性がある。補足の第2点として、これについても述べておきたい。それは、あからさまなキャラクタ指定が、動作の行い手にとどまらず、行われ手にも及んでいるとも考えられそうな、「叱りつける」「説教する」「たしなめる」のような動詞もあるということである。
これらの動作の行い手(たとえば叱りつける者)は権威を持っている者、行われ手(たとえば叱りつけられる者)は権威を持っていない者である。この違いは、人物の深いところにまで届いている違いである。
たとえば、親の失敗を子が見つけたという場合、子が親に「ダメじゃないか!」などと「怒鳴る」ことはできるかもしれない。家庭内暴力をふるって「殴る」ことさえできるかもしれない。だが、「叱りつける」ことはそうかんたんにはいかない。「親とはいうものの、性格破綻者で長らく子の世話になっており、子に迷惑をかけ通しの親。以前から人格者で通っており、ふだんは親の顔を立てている子。しかし或る時ついに堪りかねて」といった文脈が必要になる。いや、人によっては、この文脈があっても「叱りつける」と表現するのは難しいかもしれない。
動詞「叱りつける」「説教する」「たしなめる」などのこうした行われ手指定は、キャラクタ指定でもあると考えてよいかもしれない。それは表現キャラクタに、行い手の表現キャラクタ・行われ手の表現キャラクタという2つの下位類を認めるということである。ことばとキャラクタの第2の結びつき方(ことばが動作の行い手を示す)と少し違った結びつき方(ことばが動作の行われ手を示す、いわば第4の結びつき方)を認めるということである。第43回以来、ことばとキャラクタの結びつき方を「少なくとも3つ」と書いてきたのは、この意味である。
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◇この連載の中国語版と英語版
中国語版⇒角色大世界――日本
英語版⇒An Unofficial Guide for Japanese Characters
【筆者プロフィール】
定延利之(さだのぶ・としゆき)
神戸大学大学院国際文化学研究科教授。博士(文学)。
専攻は言語学・コミュニケーション論。「人物像に応じた音声文法」の研究や「日本語・英語・中国語の対照に基づく、日本語の音声言語の教育に役立つ基礎資料の作成」などを行う。
著書に『認知言語論』(大修館書店、2000)、『ささやく恋人、りきむレポーター――口の中の文化』(岩波書店、2005)、『日本語不思議図鑑』(大修館書店、2006)、『煩悩の文法――体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』(ちくま新書、2008)などがある。
URL:http://ccs.cla.kobe-u.ac.jp/Gengo/staff/sadanobu/index.htm
【編集部から】
「いつもより声高いし。なんかいちいち間とるし。おまえそんな話し方だった?」
「だって仕事とはキャラ使い分けてるもん」
キャラ。最近キーワードになりつつあります。
でもそもそもキャラって? しかも話し方でつくられるキャラって??
日本語社会にあらわれる様々な言語現象を分析し、先鋭的な研究をすすめている定延利之先生の「日本語社会 のぞきキャラくり」。毎週日曜日に掲載しております。







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