地域語の経済と社会 第58回
2009年 7月 25日 土曜日 筆者: 日高 貢一郎地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第58回 「関西弁」の英訳対照本
日本語諸方言の中でも、「関西弁」は、その知名度、認知度、理解度…など、どれをとっても、いちばん勢力のある方言だといっていいでしょう。
その関西弁を、日本語の共通語とではなく、英語と対照し、対訳をつけた本が何冊も出ています。今回はそれを取り上げてみましょう。
現在、私の手元にあるものだけでも、以下のようなものがあります。刊行年順に…
① 大阪弁英会話読本(大阪弁研究会編、七賢出版、1993.2)
② KANSAI JAPANESE The Language of Osaka, Kyoto, and Western Japan(CHARLES E.TUTTLE COMPANY 1993)
③ How to speak Osaka Dialect (大盛堂書房、1995.7)
④KINKI JAPANESE THE DIALECTS & CULTURE OF THE KANSAI REGION(DC Palter & Kaoru Horiuchi CHARLES E.TUTTLE COMPANY 1995)
⑤ COLLOCUIAL KANSAI JAPANESE まいど! おおきに! 関西弁(DC Palter & Kaoru Slotsve TUTTLE PUBLISHING 1995)
⑥ 阪神タイガースファンのための英文法(鈴木明子、文芸社、1999.11)
⑦ 英語で阪神タイガースを応援できまっか?(シャノン・ヒンギス著、朝日新聞社、2002.3)
⑧ 関西弁を英語で喋れまっか?(シャノン・ヒンギス著、宝島社、2004.3)
例えば、④の中では、京都方言と関西方言について、次のような例が挙げてあります。
KYOTO KANSAI TOKYO ENGLISH shiihin しいひん sēhen せえへん shinai しない don’t do kiihin きいひん kēhen けえへん konai こない don’t come dekihin できひん dekehen でけへん dekinai 出来ない can’t do
なお、これに関連する本として、⑨『旅の指さし会話帳』~国内編(2) 大阪~(金成由美・津銘保郎 情報センター出版局、2003.11)、がありますし、また⑩『旅の指さし会話帳 KYOTO』(浅井康江、2005.10)もあります。(また、このシリーズではその前に、沖縄の方言を取り上げた⑪『旅の指さし会話帳』~国内編 (1) 沖縄~(嘉手川 学、2003.6)もありました)。
⑨では、指差しで会話を進めるために必要なイラストがふんだんに使ってあり、各項目は漢字表記の他に、その読みがカタカナでも表記され、さらにアクセントまで付けられています。
こうやって見てくると、これらは、関西弁と、最も汎用性のある外国語=「英語」とを比較対照させることによって、当地の方言に対する理解度アップをめざしたもので、そういう必要や需要が多くなっており、「関西弁」の価値がいっそう高まっていることの表れだと見ることができそうです。
近年、経済連携協定 (Economic Partnership Agreement / EPA)に基づいて、すでにインドネシア(2008.8)とフィリピン(2009.5)から、日本で看護師・介護福祉士として活躍することをめざして多くの人たち(候補者)が来日していますし、このあと、国家試験に合格すれば、日本各地の医療現場・福祉現場で働く外国人専門職の姿が見られるようになります。
こういった人たちは、特に地域社会で現場に立った場合、地元の人たちとより親密なコミュニケーションを図ろうとすれば、必ず地元のことば=「方言」の問題と直面するはずです。特にその土地で生まれ育った高齢者の場合、方言あるいは方言混じりの会話で彼(女)たちに語りかけるケースが少なくないと思われます。
そのときに、少しでも役に立つようなサポートがあったら、日本の医療・福祉の利用者にとっても、またそれを支えようという外国人の皆さんにとっても、大きなバックアップになるでしょう。
今後も、こういった方言と外国語との比較対照本、対訳本は、関西弁以外の方言についても試みられ、各地に広がっていくのではないかと思われます。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
日高貢一郎(ひだか・こういちろう)
大分大学 教育福祉科学部 教授(国語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと、“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986)、「宮崎県における方言グッズ」(1991)、「「~されてください」考」(1996)、「方言の有効活用」(1996)、「医療・福祉と方言学」(2002)、「方言によるネーミング」(2005)、「福祉社会と方言の役割」(2007)など。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
この連載への質問、また「ここでこんな方言みやげ・グッズを見た」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「地域語の経済と社会」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。
2009年 7月 25日









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