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地域語の経済と社会 第62回

2009年 8月 22日 土曜日 筆者: 井上 史雄

地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第62回「方言駅弁「ずうずう弁」とのお別れ」

(画像はクリックで拡大します)
ずうずう弁のふた写真 title=
【写真1 ずうずう弁】
ずうず弁に入っている紙
ずうずう弁に入っている紙の一部拡大
【写真2 ずうずう弁の中のクイズ】
(下は一部の拡大)

 郡山に行く用事ができました。各地で方言グッズを探すのは習慣になっていましたが、郡山では駅弁を買わなければなりません。何しろ「ずうずう弁」という名前で、方言の意味の「弁」と弁当の意味の「弁」の両方をかけことばにしている逸品があるからです。

 これを最初に手に入れたのは、1981年。学生と一緒に東北地方の方言調査に行った帰りの列車で、郡山あたりでおなかがすいたので偶然買ったのです。駅弁の中に紙が入っていて、上段の方言と下段の標準語を結びつける形のクイズになっていたので、食べた後も楽しめました。そのあとも、郡山駅を通ったときに手に入れました。クイズの形式と単語は少し変わっていましたが、弁当は健在でした。

 しかし今回2009年6月には見当たりませんでした。駅弁の売店で、以前の事情を知っていそうな年期の入ったおばさんに聞いたら、「半年ほど前にやめた」とのことでした。「今はこれなんですよ」と見せてくれたのは、方言との関係が全然ない駅弁でした。

 手元のコレクションにある「ずうずう弁」の中のクイズを今改めて見たら、その後の方言研究で新たな位置づけのできた貴重なことばも見つかりました。

 「ぼっこっちゃ」は「こわれた」の意味で、「ぼっこれる」は「こわれる」にあたりますが、最後の「レタ」が「ッチャ」になっているのは珍しい現象です。これは近代になってから福島県で生まれた「新方言」です。別の紙では、「もっとくんち」は「もっとちょうだい」と訳されていますが、「くれて」が「くんちぇ」になりさらに「くんち」になったのでしょう。この二つは、ラ行音がタ行音やナ行音とつながるときに、福島県で発音の変化があったとして、説明できます。「げんじょも」は「けれども」の意味ですが、これも同じように説明できます。

 駅弁のような、学問的研究では見逃されそうなものからでも、様々な有益な情報が読み取れます。それなのに、方言グッズの一つが今退場したのは淋しいことです。

 なお、駅弁については、全国にマニアがいて、インターネットでも様々な情報が得られます。松山駅にも方言を載せた駅弁があります。また郡山駅で手に入らなかった「ずうずう弁」の写真が、下記の製造元のホームページに載っています。
 ⇒福豆屋の駅弁紹介ページ(http://www.fukumameya.co.jp/ekiben.html)

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【筆者プロフィール】

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
 井上史雄大橋敦夫田中宣廣日高貢一郎山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

『社会方言学論考―新方言の基盤』『日本語ウォッチング』井上史雄(いのうえ・ふみお)
明海大学外国語学部教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)、『日本語は年速一キロで動く』(講談社現代新書)、『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)『日本語ウォッチング』(岩波新書)、『その敬語では恥をかく!』(PHP新書)、『言語楽さんぽ』『社会方言学論考―新方言の基盤』(ともに明治書院)、監修に『方言と地図』(フレーベル館、最新刊)などがある。

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【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。

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2009年 8月 22日